国民との連携、生命線に 自民、政権維持に懸命 野党結集、課題山積〔深層探訪〕
衆院選で大幅に議席を減らした自民党が、国民民主党との距離を急速に縮めている。公明党と合わせても過半数割れとなり、特別国会での首相指名選挙やその後の国会審議も見据え、「是々非々」路線を掲げる国民の動向が政権の命運を左右し得るためだ。一方、立憲民主党が目指す「非自民勢力」結集のハードルは高い。 ◇指名へ安堵 「石破茂首相指名の見通しが立った」。自民幹部は30日、国民が首相指名選挙で決選投票も含め「玉木雄一郎代表」に投票する方針を決めると、ほっと胸をなで下ろした。 衆院選で自民は191議席、公明党は24議席の計215議席にとどまった。自民幹部は30日、派閥裏金事件に関わるなどして衆院選に無所属で臨み、当選した6人が衆院会派入りすると明らかにした。それでも選出に必要な投票総数の過半数を満たすのは困難な情勢だ。 首相指名選挙で野党がそれぞれの党首に投票すれば、首相と立民の野田佳彦代表の上位2人による決選投票となる見通しだ。その際、国民が玉木氏に投じた票は無効扱いとなり、石破氏が野田氏を上回る可能性が高い。このため、国民の投票方針は事実上、石破政権の継続を認める意味合いを含む。 ◇高揚 自民は岸田政権下でも国民の連立入り構想を温めていた。首相指名を乗り切っても、その先の臨時国会では2024年度補正予算案の審議などが控え、少数与党で引き続き政策実現を図るには野党の協力が不可欠だ。 「玉木さんと私の憲法観は似ている」。首相は衆院選後、周辺にこう漏らしていた。開票直後から自民は国民と接触し、両党は31日に幹事長会談を開くと発表。来月14日にも決定する経済対策では、国民が衆院選で掲げた「手取りを増やす政策」に触れる方向で、経済官庁幹部は「自民はのめるものは全部のむつもりだ」と話す。 玉木氏はこれまで、共に連合を支持団体とする立民と憲法やエネルギー政策での違いを際立たせる独自路線を歩んだ。しかし、昨年末には前原誠司元外相らが党を離れるなど、野党内で存在感は薄れがちだった。 玉木氏は30日、記者団に「われわれが議席を4倍に増やした。与野党を超えて解決型の政治を実現せよという民意だ」と宣言。政局のキャスチングボートを握った格好で、連立入りに否定的な連合からは「彼は高揚している」と冷ややかな声も上がる。 ◇高い敷居 「決選投票で協力をお願いします」。立民の野田代表は30日、日本維新の会、共産党と相次いで党首会談に臨み、首相指名での協力を要請。ただ、色よい反応があったのは共産だけで、維新は態度を保留した。 衆院選で躍進を遂げた立民だが、世論の追い風が強く吹いているとは言えない。比例代表の総得票数は1156万票で、前回21年から7万票増にとどまった。自民と国民が接近する事態に、立民若手は「決選投票で野党が『玉木首相』に動くシナリオも考えるべきでは」とささやく。 野田氏は玉木氏との会談にも意欲を示しているが、国民からの返事はつれない。「早く話し合いができればいいが、なかなか敷居が高いので困っている」。野田氏は30日、記者団にこうぼやいてみせ、「政策実現の上でも、野党で政権をつくった方が手っ取り早いのではないか」ともどかしさをにじませた。