【訂正】『相棒』元日スペシャルは過去と繋がる特別な回に 各キャラクターから感じた信念と優しさ
その小さな子を見つめる右京(水谷豊)の目は、まるで孫を見ているようだった。ということは、その父、享(成宮寛貴)のことも実は息子のように思っていたのだろうか。今回の事件の関係者が享の家族なだけに、1月1日に放送された『相棒 season22』(テレビ朝日系)の元日スペシャルは、過去の様々なことが思い出される特別な回となった。 【写真】『相棒 season20』道を歩く水谷豊と反町隆史 享と悦子(真飛聖)の息子・結平(森優理斗)が、学芸会の演劇で主演を務めることになり、祖父の峯秋(石坂浩二)は孫の晴れ舞台に、社(仲間由紀恵)とその娘・マリア(土方エミリ)も招くほどの張り切りっぷりで、右京と亀山(寺脇康文)・美和子(鈴木砂羽)夫妻も招待していた。右京は、享の逮捕後も悦子とその息子を気に掛け、交流を続けていたのだった。 また、峯秋の長男で享の兄の秋徳(新納慎也)は、結平の父親代わりを務めており、この日も保護者として、悦子とともに舞台袖で結平を見守っていた。舞台が始まって少しすると、その直前にいやらしく悦子に声をかけてきていた結平の担任・姉小路(福澤重文)が、フラフラとステージに現れ、舞台上で突如倒れてしまった。背中には、深々と刃物が突き刺さっていた。右京と亀山は、緊急事態と判断し、即座に動き出した。 峯秋は「享は刑事に向かない」と考えており、享はそんな父に警察官としての憧れと反発心を抱いていたため、2人の間には複雑な感情と確執があり、お世辞にも仲がいいとは言えなかった。だが、孫となれば別なのだろう。毎年、誕生日をお祝いしてくれる間柄の右京はともかく、関係の薄い社親子まで孫の学芸会に呼んでいるのには驚いた。親バカならぬ、孫バカがすぎる。新年早々、なんとも微笑ましい。 そういえばマリアも高校生となり、いつの間にか大きくなっている。右京から亀山たちを紹介され、社に「ご夫婦」と添えられると「うん……? 親子には見えない」とニヤリと笑うなど少し生意気な面も出てきていて、本当に人の子の成長は早い。マリアはロシア人スパイ・ヤロポロク(ユーリー・B・ブラーフ)と社の間にできた子で、『season20』では、右京の4代目の相棒・亘(反町隆史)と意気投合し、交流していたため、彼女を見ると亘を思い出す人も多いだろう。 姉小路を殺害したのは同僚の教師だった栗原志津子(美村里江)だった。栗原は女性関係にだらしない姉小路から婚約を一方的に破棄された過去があり、それがきっかけで姉小路に強い恨みを持っていることが窺えた。事件は一件落着と思われたが、逮捕された栗原は客室乗務員として世界中を飛び回る悦子にコンタクトをとり、かつての教え子で、今は宅配業者アルバイトをしている黒須(阿佐辰美)という青年を使って、悦子に「お願い」をしてくるようになっていた。 だんだんとエスカレートしていった「お願い」は、栗原が姉小路に言い寄られていた悦子を陥れるために仕掛けた罠であった。仕事先の東国で、黒須と会い、栗原のおつかいをしただけの悦子は、なぜかスパイ容疑で捕えられてしまう。 栗原を怪しんだ右京と亀山は、事前に美和子や伊丹(川原和久)、芹沢(山中崇史)、出雲(篠原ゆきこ)と東国に来ていた。でも、彼らには起こりそうな犯罪を未然に防ぐことはできても、捕えられてしまった人を逃すようなことはできない。そこで右京は内閣情報官である社に直々にお願いし、悦子を助け出す手立てを打ってもらったのである。突然であまりに無理な要望を通そうとする右京の姿に珍しさを感じたが、右京にとって悦子はそれほどまでに大切にしたい存在なのだろう。その行動から享との強い絆を感じた。 いかにも裏で暗躍できそうな美しくダンディな声の領事館員(津田健次郎)の登場に驚いたのも束の間、彼の指示に従って、移送される悦子を奪還する右京と亀山、それをサポートする伊丹と芹沢、そして戸惑う彼女を引っ張り、変装させ、別人として帰国させる準備をした美和子と出雲。彼らの見事な協力体制に、『相棒』はいろいろなタイプの“相棒”を生んできた結果、いつの間にか“チーム”になっていたことを実感した。 今回、もうひとつ大きな役割を果たしたのがマリアである。マリアは父親が訳あってそばにいないという共通点から、桔平と頻繁に連絡を取るようになっていたのである。きっと桔平が感じている漠然とした不安は、マリアも経験したことがあるもので、理解できるところがあるのだろう。右京を介して生まれた素敵な友情である。年上の女性を頼りにしている桔平の姿は、年上のパートナー・悦子にぞっこんだった享の姿にも重なってみえた。 享との不本意な別れから約10年。気がつけば長い時間が経ってしまった。それでもなお、亨の家族のために力を尽くそうとする右京に、変わらない信念と優しさを感じ、とても心が温まる回となった。 放送の直前には、石川県を中心に大きな被害をもたらしている地震が起き、放送も一部が中断されるなど、全国で不安な一夜を過ごした人が多かったことだろう。でも、右京たちのように協力すれば大変に思えることでも乗り越えられるし、桔平とマリアのように小さな繋がりがその人の心の支えとなることもあるはずだ。右京は逃げ込んだ領事館で年を越し、亀山と凧(カイト)をあげながら「いい年になるといいですねえ」と呟いた。これはもう、右京だけではない、今年の私たちの願いだ。 ※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年1月4日13:10、リアルサウンド編集部) 誤:姉小路との婚約を一方的に破棄した過去があり 正:姉小路から婚約を一方的に破棄された過去があり
久保田ひかる