発達障害の受刑者立ち直り支援 大阪刑務所、拘禁刑導入控え12月から初試行
発達障害の受刑者らを対象に、刑事施設と医療、自治体が連携して社会復帰を支援するモデル事業が、12月から大阪刑務所(堺市)で本格的に始まる。受刑者の10人に1人が発達上の問題を抱えるとされるが、従来の刑事施設では専門知識が不足して適切な治療や処遇ができず、「出所後の再犯につながりかねない」との声があった。法務省は効果を検証した上で、全国の刑事施設に拡大したい考えだ。 【グラフィックでみる】発達上の問題を抱える受刑者の支援モデル ■発達障害、疑い含め12% 刑事施設での発達障害に特化した支援は初めて。懲役刑と禁錮刑を一本化して来年6月に導入される「拘禁刑」で、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な指導や教育が可能となるため、先行して取り組むことになった。 昨年5~6月に法務省が実施した特別調査によると、受刑者の精神状況などを収容直後に調べる「刑執行開始時調査」で、877人のうち12%に発達障害やその疑いがあることが確認された。一方、発達障害の専門スタッフは通常の刑務所にはほぼ不在で、発達上の問題がある受刑者に適した処遇や医療措置も不十分だ。出所後の周辺環境によっては「不適切な行動や再犯に結びつきかねない」(同省の担当者)との懸念があった。 ■障害考慮した環境 こうした状況を踏まえ、大阪刑務所で発達上の問題がある受刑者を集約。隣接の西日本成人矯正医療センター(旧大阪医療刑務所)から心理技官や精神保健福祉士、看護師らでつくるチームの派遣を受け、支援に取り組むことになった。 具体的には、受刑者の特性に応じた刑務作業、服薬などの治療をチームで計画し、社会での自立を目指して指導。他の受刑者とは過ごすエリアを分け、廊下などに観葉植物を配置する。感情的になった受刑者は沈静効果のある青い壁の「クールダウン部屋」で過ごさせるなど、障害を考慮した環境を用意する。 ■出所後も見据え 法務省の担当者は「発達上問題のある受刑者は、例えば余暇の過ごし方が不得手なケースが多い。刑務作業の内容を含め、受刑者の特性を考えた処遇を試行したい」と話す。支援期間は1年程度で対象者は約30人。まずは数人を選定して12月上旬から支援を始める。 また今回の取り組みに伴い、大阪保護観察所や大阪府市などと協定を締結。出所後を見据えて生活保護を含む福祉支援の調整なども進める。府の担当者は「府には発達障害の専門機関もある。受刑者と接する刑務所職員らに発達障害の特性を伝えるといった役割も果たしたい」としている。
拘禁刑 懲役刑と禁錮刑を一本化して創設される刑罰。令和4年に成立した改正刑法に盛り込まれた。7年6月1日以降に起きた事件・事故で起訴され、有罪になると適用される。懲役受刑者に科されてきた木工や洋裁といった刑務作業が義務ではなくなり、受刑者の特性に応じて、更生や再犯防止の教育・指導を手厚く行えるようになる。