GRヤリス ラリー2がデビューウィン! その裏では運営面での問題点が浮き彫りに!?【JRC 2024 第1戦 ラリー・三河湾】
まだ肌寒い気候が続いている3月初旬、2024年シーズンの全日本ラリー選手権(JRC)が開幕した。全8戦で争われるシリーズの開幕戦は、20年以上続いた新城から移った初開催の「ラリー・三河湾 2024」。愛知・蒲郡周辺を舞台にしたオールターマックラリーだ。 【画像】優勝コメントを語った勝田/木村 組 ■GRヤリスのラリー2デビュー 今年のハイライトは、なんといっても世界最速のカスタマーラリーカーカテゴリーであるラリー2カーのエントリーが増えたことだろう。今まで参戦していたシュコダ ファビアに加え、今季はトヨタGAZOOレーシング(TGR)が満を持して投入したラリー2カー、GRヤリス ラリー2が正式なカスタマースペックとなってデビュー。すでにヨーロッパでは走り始めているが、日本ではこの三河湾が正式なデビューとなる。 GRヤリス ラリー2は、まずは3チームが導入することとなった。2023年に開発を兼ねてプロトタイプを走らせてきた勝田範彦/木村裕介 組が、1台目をドライブ。チーム名はワークスのTGRから、ラック with ルーキーレーシングに変更され、プライベーターとしての参戦となる。ルーキーレーシングの名前から想像できるように、クルマはトヨタ自動車会長、豊田章男氏の私物であり、準ワークスのような扱いとなっている。 2チーム目は、昨年のチャンピオンコンビ、ヘイッキ・コバライネン/北川紗衣 組擁するチームアイセロ。昨季まで走らせていた初期型のシュコダ ファビアR5(ラリー2の前身カテゴリー)からの乗り換えとなるが、最新スペックのラリー2+コバライネンはどこまで速さを見せてくれるのか注目だ。初戦は諸事情によりコバライネンの参戦が間に合わず、ベテラン田口勝彦がステアリングを握る。 そして3チーム目は、ベテラン奴田原文雄率いるNUTAHARAラリーチーム。一つ下のクラスであるJN-2のGRヤリスから乗り換え、アドバンカラーのGRヤリス ラリー2で今季からJN-1クラスへ復帰となる。コンビを組むのは昨季同様、若手コ・ドライバーのホープ東 駿吾だ。JRCを知り尽くしたベテランがどんなドライブを見せてくれるか、注目したい。 なお、チームアイセロとチームNUTAHARAは、本番車が届いたのがラリー1週間前ということもあり、ほとんどテストもできずぶっつけ本番。このラリーが事実上のシェイクダウンも兼ねてしまったことは残念だった。 ■新井大輝もついにラリー2で参戦 これらのヤリス勢の参戦もあり、盛況なエントリーとなった最高峰のJN-1クラス。このラリーでは11台がエントリーし、そのうちラリー2車両は6台と、半分以上のエントリーを集めた。注目は、ついにラリー2カーへの乗り換えがかなった、2020年JRC王者の新井大輝。欧州ではラリー2をドライブしていたものの日本では機会に恵まれずに乗れなかった最速カテゴリーへ、ようやく現役最速日本人ドライバーが参戦する。コバライネンや勝田とどんな戦いを繰り広げてくれるのか、こちらも目が離せない。 ラリー2以外のJN-1クラス参戦車では、昨季に続きJP4カーもエントリー。こちらはより市販車に近い改造範囲となっており、スバルWRXなどがラリー2勢にどこまで肉薄できるかも話題になるだろう。 ほかのクラスでは、実質GRヤリスのワンメイクになっているJN-2クラスにも若手ドライバー限定のシリーズ戦が新たに設けられた。「MORIZO Challenge Cup」と名付けられたこちらのシリーズには、29歳以下のドライバーが参戦でき、JRCの選手権とはまた別の賞典が付くシリーズとなっている。次世代のトップドライバー候補が、初戦には8名エントリーしたが、これから参戦者は増えていくだろう。こちらも盛り上がることが予想される。JN-3~6クラスまでは、昨年までと同様のレギュレーションとなっている。 ■開幕戦から秒差バトル勃発! 新城でのラリーが諸々の事情により開催できなくなり、白羽の矢が立ったのは同じ愛知県内の湾岸都市、蒲郡(がまごおり)。三河湾沿岸の施設ラグナマリーナにサービスパークやHQが置かれ、蒲郡市内とその周辺の岡崎市、豊川市、幸田町の一般道や林道がステージとして設定された。 蒲郡駅前で金曜日にセレモニアルスタートが行われ、翌土曜日からラリー初日のレグ1がスタート。新城の名物林道ステージだった雁峰に近いツイスティな林道SS「ヒメハル」、元有料道路の三河湾スカイラインを使った「幸田遠望峰山」、ショートサーキットを組み込んだ「西浦シーサイドロード」など、多彩なステージで構成される。 ラリーは1本目のSS1「ヒメハル」から出走順の早いJN-1クラスの競技車がステージを塞いでしまい、いきなり赤旗が出てしまう波乱の幕開け。しかし、その後は順調にステージは進み、レグ1を終えて勝田/木村 組のGRヤリス ラリー2がトップにつける。わずか12.8秒差の2位には新井大輝/金岡 組(シュコダ ファビアR5)。3位の福永/斎田 組のファビアはこの時点で46.8秒後方だったため、優勝争いはこの2台に早くも絞られた。 翌日のレグ2は、サービスに近いグラベルのスーパーSSを挟んだ全6本のステージ。4本の林道SSはそれぞれ10km以上のステージとなるため、SS数は少ないものの距離はレグ1より長くなる。ツイスティな林道ステージを得意とする勝田範彦は、この日オープニングのSS9と続くSS10で2連続ベストをマーク。この2SSだけで2位新井大輝との差を、26.7秒にまで広げた。 午後のリピートでは1本新井が取り返すが、時すでに遅し。その差を埋めることはできず、勝田/木村 組のGRヤリス ラリー2が見事にデビューウインを飾った。最終的な両者の差は、21.2秒となっている。3位には福永/斎田 組のファビア ラリー2が入り、GRヤリス ラリー2の奴田原/東 組は4位、田口/北川 組は5位でそれぞれ初戦をフィニッシュしている。 ◆優勝ドライバー勝田範彦のコメント 「去年1年開発に携わってきましたが、伝えた問題点はすべて改善されていて今年のマシンはすごく乗りやすくなっていました。プロトタイプに比べフロントは舵が入りやすく、リヤは限界が上がっていて格段に速くなっています。サスやデフのセッティング面で大きく変えることはしていないのですが、別のクルマのように乗りやすくなっていたのに驚きましたね。クルマのポテンシャル自体が大幅に向上しています。 ステージに関しては、雁峰(新城ラリーの名物林道SS)がきれいで走りやすかったと思えるほどツイスティで、路面コンディションもいいとは言えませんでしたね。クルマを仕上げてくれたチームのみなさんに感謝です」 ◆優勝コ・ドライバー木村裕介のコメント 「コ・ドライバーとしては反省点の多いラリーでした。リエゾン区間の時間設定が思ったよりも厳しくて、街中の信号タイミングと渋滞がひどすぎて寿命の縮まる思いでした。TCに間に合わせるのは、コ・ドライバーの大事な役目です。気が焦ってしまいミスコースをしてしまう場面もあったため、そこは反省すべき点です。 クルマに関しては、ボディのバイブレーションが大幅に減ったので快適性が上がって乗りやすくなっていることに驚きました。リエゾン区間では本当に助かる点です。この快適性は、プロトタイプに乗っていたボクらでないとまったく分からないありがたみかとは思いますが(笑)」 ■時間設定のシビアさが問題に? コ・ドライバーの木村が語ったリエゾン区間の時間設定に対する思いは、ほかのクルーからも多く聞かれた点だった。あるTCでは遅着があまりにも続出したため、運営側でペナルティを無効にすることもあったくらいで、今回話を聞いたクルーからは全員ほぼ同じ意見が聞かれた。 欧州でのラリー経験が多い新井大輝のコメントを参考にすれば、「フィンランドのラリーとか、20~30分くらい余裕を持たせたタイム設定にしているので、時間に余裕があることが多かったです。結果的に競技への集中と安全確保につながるので、日本のラリーも参考にしてほしい点ですね」とのこと。予想できたであろう週末の蒲郡市内の渋滞には、もう少し配慮が必要だったのかもしれない。 そして、同じように多く聞かれたのがステージコンディションの劣悪さ。悪名高かった新城の雁峰が何倍もマシだったとの意見もあったほど、今回の林道ステージは特に走りにくかったようだ。もう少しクルーが楽しめるようなステージ設定も必要だろう。運営が新城ラリーをずっと開催してきたオーガナイザーだったせいか、初開催とはいえ厳しい意見が多かった。 ほかにも、有料化によって減ってしまったサービスパークの観客数や、開催中に警察から指導が入った観客の動線確保など、初開催ならではの問題点は大小問わず見受けられた。しかし、これらは開催数をこなしていけば改善されていくだろうと思われるし、なにしろ交通手段も含めた立地のいいラリーイベントという点はとても大きなメリットとなるはず。今後の発展が楽しみな、新しいイベントだと感じた。 <写真と文:青山朋弘>
編集部(t-aoyama)
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