『虎に翼』“優三”仲野太賀と“航一”岡田将生を比較 寅子にぴったりなパートナーは?
人は忙しさに紛れて、何かから目を背けようとすることがある。時にそれは、自分自身さえ気づいていない、心の奥底に蓋をした感情かもしれない。 【写真】「航一さん」と親しげに呼ぶ寅子(伊藤沙莉) 『虎に翼』(NHK総合)第78話で浮き彫りになったのは、寅子(伊藤沙莉)の心に残る、亡き夫・優三(仲野太賀)の死がもたらした癒えない喪失感だった。ある日、家に帰った寅子は娘の優未(竹澤咲子)がテストの点数を偽装しようとしているのを目にする。「テストになるとおなかが痛くなる」と訴える優未の姿に、プレッシャーに弱かった優三の一面が、生き続けているかのようだった。 「ねえ、どんな人だったの?」 優未からの質問に、優三のことを話そうとすると、まるで胸が詰まるような感覚に襲われる寅子。何も答えられないまま、布団の中で涙を流す。 寅子の心の奥底では、まだ優三の死を受け入れられずにいた。その痛みから目を逸らすかのように、日々の仕事や育児に没頭する姿には、今だ優三の死と向き合えない脆さが潜んでいたのかもしれない。東京であれば、花江(森田望智)や直明(三山凌輝)が寅子の心の変化に気づいてくれただろう。しかし、ここは新潟。当然ながら、イマジナリー花江でさえ寅子の涙には気づけない。 そんな中、翌朝、支部に現れた星航一(岡田将生)が寅子の顔を一目見るなり、「ゆうべ、泣きましたか」と鋭く指摘したのだ。岡田将生が放ったこのキラーワードは、寅子のみならず視聴者の心をも揺さぶった。寅子の心に、この言葉がどう響いたのか。航一の存在が、彼女の内面に少しずつ変化をもたらす予感がする。 航一といえば、かつて寅子が、最高裁判所長官・星朋彦(平田満)の著書改稿作業を手伝った際、朋彦は突如、寅子に「佐田君の知り合いで、息子に合いそうなご婦人はいらっしゃらないかね? 航一の妻も戦時中に病気で亡くなってねぇ」と尋ねた。これに対し航一は即座に「父の言うこと、真に受けないでください」と寅子に釘を刺したが、この場面は多くの視聴者に、寅子と航一の間に芽生える可能性のある感情を予感させるものとなったはずだ。 寅子を取り巻く2人の男性の対比も面白い。亡き夫・優三は、やや頼りない面もありながら、優しさと深い愛情を持つ人物として描かれていた。一方、航一は一見スマートだが、どこか掴みどころのない印象を与える。 一見すると正反対のタイプに見える2人だが、共通点もある。それは「人に対する客観性」だ。優三の優しさの根源には相手を理解しようとする姿勢があり、航一の鋭い洞察力もまた、人を客観的に見る目から生まれているのだろう。 第37話で弁護士になった寅子が依頼人に騙された際には、「すべてが正しい人間はいないから」「みんな良い面と悪い面をもっていると思うんだ。だから法律がある」と言葉を残した優三。書生だった優三は、猪爪家でもバランサーの役割を果たしていた。 一方の航一は、書記官の高瀬(望月歩)について「思い出にできるほど、お兄さんの死を受け入れられていなかったんでしょうね」と他人が気づかないことを察知していた。そもそも彼が度々口にしてきた「なるほど」という口癖は、他者の発言を観察した結果の言葉だ。狭いコミュニティならではの、言葉以上の意味を持つ“差し入れ”へのはっきりとした対処も心得ている。 寅子が彼を「航一さん」と親しげに呼ぶだけで、ざわっと飛び交う視線。狭い地方社会の恐ろしさを、東京から来たばかりの寅子はまだ知らない。しかし、周囲の人間をしっかりと見ている航一は、それをよく理解しているようだ。 航一との間の恋愛フラグはまだ少ない節もあるが、猪突猛進するタイプの寅子には、やはりこういった性格のパートナーがぴったりのように思えてくる。寅子の「はて?」と、航一の「なるほど」は案外いいバランスで互いを補えるのではないだろうか。
すなくじら