薬剤師不足の地方…全国ワースト2位の福井県、現場に募る危機感 公立病院で必要人数の半分に満たないケースも
福井県内で調剤や服薬指導に従事する薬剤師の数が人口10万人当たりで全国最低水準にあり、人材確保策が急務となっている。各病院の事務担当者らは「医療の質に関わる事態」と危機感をあらわにする。県は大学の薬学部生らの奨学金返還を支援する制度を8月に新設。県の指定病院で一定期間勤務することを条件に最大480万円を支給し、県外に進学した学生らのUターンを促す。中高生の職場体験など魅力発信事業にも取り組み、対策に本腰を入れる。 ■慢性的に必要数満たず 厚生労働省の統計によると、医療機関と薬局で勤務する県内の薬剤師は2022年末時点で計1232人。人口10万人当たりの人数は164人で、全国平均の202人を大きく下回り、47都道府県で最少の沖縄県に次ぐワースト2位だった。石川県は上から17番目、富山県は36番目となっている。 福井県内のある公立病院では慢性的な薬剤師不足に女性職員の育休が重なり、必要人数の半分にも満たない時期があったという。今も足りない状態が続き、薬剤部門の責任者は「調剤対応に追われ、入院患者の投薬指導や医療チームでの薬学的助言といった業務の時間を十分に取れないこともある」と嘆く。 県医薬食品・衛生課は、県内に薬学部がないことを人材不足の原因の一つに挙げ、他県への進学者が現地で薬剤師の仕事に就くケースが多いとみている。 また、厚労省は医師と薬剤師が互いに専門性を発揮して医療の安全性を高めるため、病院外の薬局で医薬品を購入する「医薬分業」を推進しているが、県内は薬局数も少ないため分業が十分に進んでいない。日本薬剤師会の今年2月調剤分の統計では、院外処方の割合が全国平均の82・2%に対して県内は64・6%にとどまり、全国最低だった。 ■各県で地元定着支援 県が新設した制度では、薬剤師不足の深刻さなどを考慮して指定した6市3町の10病院に勤務することを条件に、奨学金の返還に充てる資金を年間80万円まで、最大6年間貸与する。貸与期間の1・5倍(6年貸与なら9年間)勤務し、かつ県が定める3年間の研修プログラムを修了した場合に返済を免除する。薬学部を卒業予定の学生や県外在住の薬剤師を対象に、30日まで応募を受け付けている。 薬剤師不足は地方共通の課題で、地元定着を促す同様の支援制度は各県にある。富山県は富山大薬学部に今春設けた地元出身者向けの「地域枠」で入学した学生10人を対象に、地元就業を条件に6年間の授業料など計約700万円を支給。石川県はがん専門などの特別資格を取得した薬剤師向けに最大240万円を支援している。 福井県薬剤師会の刀禰真紀副会長は「金銭的支援の充実により、地方に人材を分散させることは医療水準を高める上で重要」と指摘する。同会は県の委託事業で職場体験の受け入れや高校での進学セミナーを行っており、本年度からは学童クラブで「お薬教室」も展開。「薬剤師の役割や仕事の魅力を地道に発信し、なり手を増やしていきたい」と話している。