『フォールガイ』デヴィッド・リーチ監督が語る、タイトルに込めた“もう一つの意味”「心からの愛こそ、この映画の本質」
「すばらしい作品にするためには、自分の内面的なものに触れる必要があります。このプロジェクトには、明らかに私が経験してきた、とてもリアルに感じられるなにかがありました」。スタントマンとして映画界入りを果たし、いまやハリウッドのアクション映画界を代表する監督の一人へと成長を遂げたデヴィッド・リーチ監督は、最新作『フォールガイ』(公開中)との運命的な出会いを振り返る。 【写真を見る】危険すぎるクレーン撮影!?あらゆるシーンに込められた、スタントマンへのリスペクトにも注目! ■「本作は、スクリーンに物語の魔法をもたらそうとするすべての人々へのラブレター」 本作の主人公は、事故によって身体にも心にも大きなダメージを負って業界を去ったスタントマンのコルト・シーバース(ライアン・ゴズリング)。ある時彼のもとに、大作映画での仕事復帰の依頼が舞い込んでくる。初めは渋っていたものの、監督を務めるのが元恋人のジョディ(エミリー・ブラント)だと知って参加を決意。彼女とヨリを戻すために難易度の高いスタントに次々と挑むコルトは、プロデューサーに頼まれて失踪した主演俳優の捜索に乗りだすことに。しかしその先には、思いも寄らないトラブルが待ち受けていた。 原案となったのは1980年代に放送されたドラマシリーズ「俺たち賞金稼ぎ!!フォールガイ」。同作のリメイク権を持っていたプロデューサーのガイモン・キャサディは、20年以上もの間この作品の映画化を目指して活動を続けていたが、なかなか実現には至らず。再びプロジェクトを動かすにあたり、真っ先に監督として白羽の矢が立てられたのがリーチ監督だった。その一番の決め手となったのは、やはりリーチ監督自身がコルトと同じスタントマンだったということにほかならない。 「リーサル・ウェポン」シリーズや「ダイ・ハード」シリーズといった往年のハリウッドアクション映画に感銘を受けて映画界入りを果たしたリーチ監督は、スタントマンとして参加したデヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』(99)をきっかけに映画制作への道を志したという。短編などの制作を経て、同じスタントマン出身のジョン・スタエルスキ監督と『ジョン・ウィック』(14)を共同監督。以後も『デッドプール2』(18)や『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(19)、『ブレット・トレイン』(22)と、立て続けにヒットを飛ばすアクション映画を手掛けてきた。 「長年スタントマンとして活動してきた私にとって、この映画を世に送りだすことは、とても大切なことでした」と、並々ならぬの熱量をもって本作に臨んでいたことを明かすリーチ監督。「私の映画業界でのキャリアは、20年間もスタントマンとしてパンチを受け、ワイヤーで吊られ、車で突っ込み、火をつけられ、全部門のスタッフと密に仕事をしてきた年月の上に成り立っています。その原動力になったのは、やはり映画への愛情でした」と、映画にかかわるあらゆる人への敬意をあらわにする。 そして本作について「映画とスタントパフォーマー、そして美術監督から撮影監督、照明技師や電気技師、アシスタントに助監督まで、映画を偉大にすることに心血を注ぎ込み、スクリーンに物語の魔法をもたらそうとするすべての人々へのラブレターなのです。この作品をつくることは、私の人生において最高の経験のひとつとなりました」と幸せそうに振り返った。 ■「ライアン・ゴズリングとエミリー・ブラントは、真のプロフェッショナル」 作品のタイトルにもなっている“フォールガイ”とは、元々はスタント用語の一つ。「映画界ではかなり昔から使われていた言葉ですが、馬から落ちたり、バイクから落ちたり、階段を降りたりする時に、そのステップを踏む人のことをいいます」とリーチ監督は説明する。「ですがこの映画では、すべてを危険にさらすほどの深い愛に落ちた人という意味の比喩も込められているのです」。 本作の脚本を手掛けたのは、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』でもタッグを組んだドリュー・ピアース。気心の知れた脚本家と本作を作り上げるにあたってリーチ監督は「オリジナルに敬意を払いつつ、自分たちなりのひねりを加えたかった」と明かし、フィルムノワールからラブストーリーまであらゆる要素を加えながらじっくりと開発を進めていったという。 「うまくいったと思えるようになったのは、コルトに映画全体にかかわる動機を与えた時でした。彼には原動力となるなにかが必要であり、“愛”ほど強力なものはありませんでした。コルトとジョディの間にある“心からの愛”こそ、この映画の本質。コルトはそれを取り戻し、彼女になぜ自分が去ったのかを伝える必要がある。だから彼はアクションヒーローとしてだけでなく、愛する人に自分の気持ちを表現できる人間として、最高の自分を見せる必要があるのです」と語る。「劇中のラブストーリーは少し大げさに思われるかも知れません。ですが、ハリウッドでは“事実は小説よりも奇なり”。ロマンスもコメディも不条理も、すべて現実の映画制作の現場から取り入れたものです」。 さらに、自分自身のキャリアを投影したともいえるコルト役を演じたライアン・ゴズリングについて「彼はアクションに対してすばらしい適性を持っている。コルトを演じる上で完璧な人物だった」と太鼓判。また、相手役のジョディについても「下積みから監督の椅子に上り詰めたジョディにも、私の経験が少し含まれています」と明かし、「エミリーはジョディに命を吹き込み、賢く共感できる、とても有能な女性にしてくれました」と感謝を込めた賛辞を贈る。 「彼らはとても楽しくすばらしい人間であり、カメラを回すとレンズを通してエネルギーが湧き上がってくるのがすぐにわかる。これまで私が監督として経験したことのないほどの魅力を2人から感じ、カットをかけることを忘れてしまうこともありました」と、2人の抜群の存在感と相性のよさを絶賛。「ライアン・ゴズリングとエミリー・ブラントは、とても自然体で真のプロフェッショナルです」。 最後にリーチ監督は、「私とプロデューサーのケリー・マコーマックは、一緒に映画を作るたびに可能な限り大きなフォーマットで観てもらえるようなハードルを設定し、大スクリーンにふさわしい映画をつくろうとしてきました。特にこの作品は、私たちにとって思い入れの強い作品であり、映画への賛美であり、映画館という共同体験のなかで人々が一緒に観るものをつくるという映画人としての愛情が込められています」とアピール。「大きなスペクタクルは、ぜひとも大きなフォーマットで楽しんでもらいたい」と、自信をのぞかせていた。 構成・文/久保田 和馬