鳥栖降格で待ち受ける“茨の道”…スポンサー離れ売上急落、クラブ再構築は「限りなく険しい」【コラム】
大口スポンサーが離れ財政基盤が脆弱に…
一番の問題だったのは鳥栖の財政基盤。2012年の昇格時、J1クラブの平均収入が約32億円だったのに対して鳥栖は約15億円。もっともJ2時代の2011年は約7億円だったことを考えると倍以上には伸びた。 2015年からは大口スポンサーにも恵まれるようになり、売上を伸ばしていくが17年の約34億円、18年は約43億円になったところで一気にスポンサー離れが進み、19年度の売上は26億円にまで急落する。元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスの獲得に際してスポンサーとの意思疎通に問題があったことや、別のスポンサーは内部の問題があり、クラブの土台は一気に崩れた。そして佐賀県内の企業では大きな穴を埋めることがなかなかできなかった。 本当ならこの2019年で鳥栖が降格しても不思議ではなかった。そこをギリギリで乗り切ったのは鳥栖の「フィジカル」以外のもう1つの特長、「若手選手の起用」のおかげだった。19年にトップ昇格した中には17歳の松岡大起(福岡)や大畑歩夢(浦和レッズ)、22歳の樋口雄太(鹿島アントラーズ)がおり、2020年になると17歳の中野伸哉(ガンバ大阪)、大卒新人の森下龍矢(レギア・ワルシャワ)や林大地(G大阪)らを起用し、フレッシュな戦いぶりで立ち向かった。 しかし2022年からはそんな若手を起用する余裕がなくなった。寮などの施設が充実し、サッカーに打ち込める環境をいち早く整えていた鳥栖ユースに入ることはJ1リーグデビューへの近道だったが、その道は狭くなってしまった。 こうして降格してしまった鳥栖がすぐJ1に戻れるかというと道は限りなく険しい。2023年度の鳥栖の売上は約25億円。これは同年度のJ2クラブと比較すると9位になる。初昇格のFC町田ゼルビアが約34億円、ジュビロ磐田は43億円で、売上トップの清水は約51億円あった。 しかも鳥栖が前回J2リーグで戦っていた2011年に比べると、今のリーグには曲者が多い。低予算でもはっきりした、魅力あるサッカーを繰り広げているチームばかりになっている。簡単には勝てない相手ばかりだ。 茨の道は覚悟しなければならないだろう。チーム作りだけではなく、クラブの再構築も必要だ。まずはシーズン直前やシーズン中に選手が移籍してしまう要因を取り除かなければならない。選手を育てる力が確かなのは、多くのクラブに鳥栖出身の選手がいることで明らかなのだから。 [著者プロフィール] 森雅史(もり・まさふみ)/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。
森雅史 / Masafumi Mori