【西武投手王国への道】投手陣再建のカギは『1球への思い』「以前は練習量に意識がいっていたけれど、より質にこだわるようになりました」(田村伊知郎)
逆襲へ現実的なのはブルペン陣の立て直し
投手王国で常勝西武復活へ──。 渡辺GMはそう構想し、近年のドラフトでは投手中心に指名してきた。ドラフト1位では2022年入団の隅田知一郎、24年入団の武内が先発陣の一角を任されている半面、21年同1位入団の渡部健人ら若手野手がなかなか育たずに今季の低迷、そして松井監督の事実上の解任に至った。 「本当に悔しいのは自分たちです」 松井監督がロッカールームで最後の言葉を選手たちにかけた直後、帰路に就く正捕手・古賀悠斗はチームの不振についてそう吐露した。松井監督から最も先発マスクを託されてきた男は責任を痛感している。 「ポジション柄、僕だけ違う方向を向いてプレーしています。その中で勝てない、僕の配球ミスで負けている試合もある。(自身がリードで出す)指のサイン一つで勝敗が決まるポジションを守らせてもらっている中での責任というか。そういう自覚をもうちょっと僕の中で持ってやらないといけないという思いですね」 渡辺監督代行の下で巻き返しを図るには得点力増が不可欠になるが、大幅な戦力アップは望みにくい。現実的にはブルペン陣を立て直し、投手陣を中心に少ないリードを守り勝つことがポイントになる。 カギを握る一人が松本航だ。4月7日の日本ハム戦(エスコンF)から3試合続けてハイクオリティースタート(7回以上を2失点以下)を達成したが、豊田清投手コーチの要請で5月上旬から中継ぎに回った。 「先発で良かっただけに少し悔しさはありました。でも、やるからにはやってやろうという気持ちです」 そう話した5月11日の楽天戦(ベルーナ)では最速154キロを計測。まだセットアッパーの役割に適応中だが、短いイニングになって球速が上がっており、松本自身にとっても飛躍のきっかけになるかもしれない。
移籍してきた右腕が感じたこと
投手陣再建の全体的なポイントは前回の連載でも紹介した「1球への思い」を見つめ直すことだ。古賀の先の発言にも通じるが、この点こそ近年改善されてきた西武投手陣の土台になっている。 「1球の大切さはめっちゃ意識しています。試合の1球に直結すると思うので。数は少なくても練習の1球を試合の1球にいかに近づけられるか。豊田さんに口酸っぱく言われてすごく意識するようになりました」 中継ぎの田村伊知郎はそう話した。豊田コーチが就任した20年から出番を増やし、今季は4月14日に初昇格してから安定した投球を続けている。 「以前は練習量に意識がいっていたけれど、より質にこだわるようになりました。例えばセットに入るまでの動きも試合とまったく一緒の流れで行う。練習から試合と同じ動きをずっとすることで積み上げてきた質が糧になり、マウンドでの自信につながっていると思います」 現役ドラフトで今季加わった中村祐太は一軍に昇格した際、広島でも指導を受けた青木勇人投手コーチから掛けられた言葉がある。 「肩をつくるとき、高さやコースを1球1球丁寧にやりなさい」 一軍に加わり、1球を大切にする姿勢が西武投手陣を押し上げている要因だと中村祐は実感した。 「ブルペンではコントロールはどうでもいいというか、少ない球数で思い切り投げてマウンドに行ったときに100%で放れる肩をつくる場所という意識がありました。それが1球1球丁寧につくる意識になり、1球のテンポが変わりました。去年まではバンバン投げて肩をつくっていたのが、1球1球丁寧になった結果、トータルで球数も減っていると思います」 中村祐は交流戦までに8試合に登板して防御率4.70だが、5月7日に登録抹消されて同17日に再昇格すると3試合連続無失点。プロ11年目の右腕は移籍先で新たな境地に達し、一皮むけられるだろうか。 負のスパイラルにのみ込まれて監督交代に至った西武が依然、厳しい状況なのは間違いない。ただし、まだ90試合近く残されている。渡辺監督代行は就任会見で先を見据えた。 「過去には8月時点で借金15、最下位にいた中でAクラスまで行けた年もあります。6月に入るけど、本当の山は9月に来ると思う。そこまでに何とか借金を返していきたい」 交流戦開幕時で3位ロッテと10.5ゲーム差。その背中を捉えるためにも、投手陣の再整備が不可欠だ。
週刊ベースボール