人気絵本を奇才チャーリー・カウフマンが脚色、映画ファンにもおすすめなアニメ「オリオンと暗闇」
Netflixで配信されているドリームワークス製作のアニメーション「オリオンと暗闇」は、エマ・ヤーレットが2014年に発表した絵本「Orion and the Dark」を映画化したもので、日本では俵万智が翻訳して「オリオンとクラヤーミ」のタイトルで出版されている。 主人公のオリオンは、想像力がたくましすぎて、なんでもこわがってしまう男の子。いろんなものがこわいのだけれど、特にこわいのが夜の闇。ある夜、クラヤーミという怪物みたいなものが現れて、オリオンを夜の冒険へと連れだす。そしていままでおびえていたものが、その正体を知ればむしろ楽しいものだと気づいていく。 【動画】未知のものを受け入れられる決意 「オリオンと暗闇」予告編(英語版)
原作の遊び心を違うベクトルで表現したカウフマンの奔放さ
アニメ化されたバージョンでも、基本的なストーリーは変わらない。ただし、この映画版の脚本を手がけたのがチャーリー・カウフマンと知れば、かなりヒネった作品に生まれ変わっていると想像がつくのではないか。 カウフマンといえば、「マルコヴィッチの穴」「エターナル・サンシャイン」といった奇想に満ちた怪作の脚本を次々と手がけ、「脳内ニューヨーク」や「もう終わりにしよう。」といった監督作でも、ヘンテコで複雑怪奇でどこかものがなしい唯一無二の世界観を展開してきた天才であり奇才。言わばお子さま向けアニメとは最も遠いところにいるクリエーターなのである。 いや、いくらカウフマンといえど齢(よわい)65歳、キャリアは30年を超えるプロの脚本家。ちゃんと原作の骨子もメッセージも生かしながら脚色している……のだが、映画版のオリオンは年齢層が少し上がり、抱えている悩みにも思春期の複雑さが見え隠れする。 そして、おそらくオリオンの内面の恐怖が擬人化した形で現れたのであろう〝暗闇〟のキャラクターが大きく違っている。オリオンを成長させてくれるはずの〝暗闇〟こそが、オリオンのような子供に忌み嫌われることに傷つき、誰にも必要とされていないのではないかという恐怖と孤独を抱えているのだ。 かくしてオリオンは、ともすれば迫りくる太陽に身をさらして消えてしまおうとする〝暗闇〟を救い出すという、あべこべの役割を担うことになる。つまりオリオンは、自分の分身のような〝暗闇〟を救うことで、自分自身が抱えている恐怖や劣等感とも向き合わざるを得なくなるのである。 ところが、だ。おそらくカウフマンは「誰かを救うことで自分自身を救う」という典型的なポジティブメッセージに作品を納めてしまうことに、途中でがまんならなくなったのではないか。というのも、終盤にさしかかると物語は突然時空を超え、親から子へと世代をまたぎ、デタラメにデタラメを塗り重ねるような荒唐無稽(むけい)な方向へとかじを切るのだ。 それでいて最後は強引にキレイにまとめるあたり、プロの脚本家としての剛腕にうならされもするのだが、絵に詰まった原作の遊び心をまったく違うベクトルで受け継いだカウフマンらしい自由奔放さに思わず笑みがこぼれてしまう。子供をメインターゲットに据えつつも、映画ファンのみなさんにも自信を持っておすすめしたい好編である。 「オリオンと暗闇」はNetflixで独占配信中
映画ライター 村山章