【密着】ドイツ・ライプツィヒ 実家の料理旅館を継がずマジシャンとして生きる息子へ届ける両親の想い
ドイツ・ライプツィヒでマジシャンとして奮闘するTokyoTomoこと金盛友哉さん(33)へ、富山県で暮らす父・宗三さん(67)、母・敦子さん(59)が届けたおもいとは―。
仕事場は森鴎外も通った歴史ある劇場。連日オリジナルのマジックで観客を沸かす
友哉さんの仕事場は、「クリスタルパラスト・ヴァリエテ」という劇場。明治の文豪・森鴎外もドイツ留学中に観劇に通った歴史ある劇場で、マジック・大道芸・ダンス・音楽などありとあらゆるショーが楽しめる。ジャンルや演目は数か月単位で変わり、平日は夜8時から、週末は1日2回公演を行っている。クリスタルパラストは友哉さんが少年の頃から憧れていた舞台のひとつだったといい、2019年にオーディションに合格しメンバーに選ばれた。今回の公演で披露しているマジックは、友哉さんが考案したオリジナル作品。日中はその準備に追われ、共演者やスタッフにもネタがばれないよう、毎日狭い楽屋で小道具を作っている。その準備の合間を縫ってステージに登ると、ひたすら反復練習。舞台上の空気の流れを身体に刻んでいる。
こうして午後8時、約2時間のショーとなる「クレイジーコメディ」がスタートする。連日完売する人気の公演はこの日も満席。テーマは「言葉のいらない笑い」で、世界各国から厳選された8組のパフォーマーが出演し観客たちを魅了していく。そんな中、出番を迎えた友哉さん。今回は大掛かりなマジックのため、大学時代の先輩であり、友哉さんと「まわりみち」というコンビでも活動するジャグラーのぱわぁさんがサポートで参加する。ステージに登場した友哉さんは、「ご来場の紳士淑女の皆様…」と、日本語でマイクパフォーマンス。そして友哉さんが閉じ込められた段ボール箱に、ぱわぁさんが傘を次々と刺していく。その後の思いがけない展開に観客はびっくり。オリジナリティあふれるユニークなパフォーマンスで劇場を沸かせた。
保育園で出会ったマジックの道をひたすら追求し、ライプツィヒへ
マジックとの出会いは保育園のとき。園長がマジシャンだったことから影響を受け、マジックに心酔。祖父が始めた料理旅館の宴会場でもよく覚えたてのマジックを披露していたという。より深くマジックを知るため、東京大学の大学院に進学しマジック史を研究。卒業後、学芸員として高知に移り住んだころから大会で成績を残せるようになり、2022年にはマジックの世界大会のアジア代表に選ばれるまでに。そこで、「世界でやるなら良いところがある」と教えてもらったのがライプツィヒのクリスタルパラストだった。やりたいことにまっすぐ、ぶれることなく生きてきた友哉さん。正直これまで、実家である料理旅館について考えたことは一度もなかったという。父が継いだ料理旅館は10年前に廃業し、今年建物が取り壊された。 「息子には思い切って自分のやりたい道に進んで行ってもらいたいなと思っていました」という父・宗三さん。自分でその道を見つけ、深く突き詰めていく友哉さんを感心しながら見守っている。また母・敦子さんも「マジックだけでなく、面白いこと、人を驚かすのが小さい頃から好きでした」と振り返り、息子が歴史のある劇場で自分のパフォーマンスができたことを喜ぶ。