コロナ禍をきっかけに古墳〝沼〟へ!中1で自費出版や講演会を行う板東郁仁さん
自分たちなりの好きな歴史の楽しみ方をしているキッズたち。一方で、身近には同じ趣味をもった同世代の友達が少ないことが悩み。しかし、視野やコミュニティを広げてみると、同じような趣味趣向をもった仲間たちがいることが分かってくる!歴史人Kidsが〝子どもたちの能動的なコミュニティの場〟として、歴史人キッズたちの推し活事情を発信する企画です。 はにお@駆け出し古墳めぐりすと 板東郁仁(ばんどう いくと)さん ーまずは、自己紹介をお願いします! 初めまして。僕は『はにお@駆け出し古墳めぐりすと』こと板東郁仁(ばんどういくと)、中学校1年生です。小学4年生から古墳にハマり、これまでにのべ1700基の古墳を巡ってきました。僕は昔から史跡に興味を持っていて、お寺や近世城郭などが好きでした。新型コロナウイルスの影響で県外に出られなくなった時、県内で運動不足解消のサイクリングをしていて古墳に出会い、そこから古墳に興味を持ちました。 ■趣味だけにはとどまらない、古墳の魅力発信中! ー好きな歴史カテゴリーは何ですか? 考古学分野、特に古墳時代が大好きです。弥生時代の終わり頃に大きな墳丘墓が築かれるようになり、奈良県桜井市に箸墓古墳が築かれた以降の時代、3世紀中頃から7世紀頃までを古墳時代と呼びます。古墳時代には各地に様々な墳形や大きさの古墳が築かれます。石室や棺の造り、副葬品や墳丘に飾られた土製品など、1基1基に個性があります。古墳を見ると、古墳が築かれた時代背景や被葬者への思いを実感することができるのが、古墳の魅力です。 ー古墳を好きになったきっかけって覚えていますか? サイクリング中に神宮寺山古墳を訪れたことがきっかけです。神宮寺山古墳は、岡山駅近くの市街地にある国指定史跡の古墳で、岡山県で第5位の大型前方後円墳です。市街地に全長150mの大きな古墳が残されていること、後円部墳頂に神社が築かれていて地元の方々から大切にされていることを感じ、古墳に魅力を感じました。 帰宅後に岡山県の古墳について調べてみると、岡山県には約1万2千基の古墳があり、自宅近くの山にも100基以上の古墳があることを知り、興味が湧いて古墳巡りを始めました。 ー今までの歴活について教えてください! 古墳を訪れたり、古墳を楽しむ『墳活』を楽しんでいます。現在住んでいる岡山県をはじめ、広島県、島根県、兵庫県や四国、近畿などの地域に築かれている古墳や史跡を巡ってきました。訪れた古墳についてまとめた古墳新聞を新聞社主催の新聞コンクールに応募したり、SNSで古墳の魅力を発信したりしています。県外から来られた方を岡山の古墳に案内し、古墳の解説をすることもあります。 また、岡山の魅力的な古墳トップ100をまとめた『岡山100名墳』を執筆し、2023年5月に自費出版しました。小学校や中学校の社会科で同級生に古墳について授業し、図書館の市民講座でも古墳の講演を行ったほか、中小企業の社長さんや岡山県の政治家の方々にも古墳について講演しました。10月5日にリリースされた音声ARアプリ『はにお君&古墳王子とめぐる 古代吉備王国 古墳ミステリーツアー』では、岡山の古墳の音声解説を担当させてもらいました。 ■墳活なら、見て入って楽しめるエンタメ歴活ができちゃうよ! ー古墳の魅力を教えてください! 古墳の魅力は、まず『墳形や墳丘』です。古墳が築かれた場所や大きさ、古墳の形、周濠や周溝の有無、葺石や埴輪の状況など、古墳の墳丘を見ると、古墳が築かれた時代や被葬者の権力などが想像できます。ひとことで前方後円墳と言っても、前方部はバチ型から柄鏡型、さらに台形へと変化します。後円部と前方部の高さや幅の比率、何段築成かなど、築かれた時代によって古墳の築かれ方が変化していきます。特定の地域に多い墳形や、身分の高い人を埋葬する時にのみ築かれる墳形などもあります。また、墳形が類似した前方後円墳が見つかることもあります。このような墳形の情報は、被葬者の性格や外交関係を知る手掛かりになります。 古墳を訪れてぜひ体験してほしいのは、石室です。岡山では横穴式石室が築かれている古墳が多数あり、石室に入れる古墳もたくさんあります。全長19.9mに達するとても長い石室や、高さが約4mもある巨大な石室もあり、被葬者の権力の大きさに圧倒されます。畿内の古墳の石室と違って、岡山の古墳の石室はとにかく巨大な石材を使うことにこだわって築かれていて、高さ3.8mの巨大な1枚岩の奥壁や、長さ5mの超巨大な天井石が使われた石室もあります。石室内に石棺や陶棺が残されていることもあります。石棺の石材や陶棺の形状からも、他の地域との関連を想像することができます。 埴輪や葺石、副葬品なども面白いです。弥生時代に古代吉備で発展した特殊器台が簡略化されて円筒埴輪や朝顔形埴輪が作られたと考えられていて、岡山発祥の特殊器台は古墳の埴輪のルーツと考えられています。人物や動物、武具や家などの形象埴輪を見て、当時の生活の様子を想像するのも面白いです。 墳丘に登ったり石室に入ったり、また石棺や埴輪や副葬品を見学したり、いろいろな視点から古墳を楽しむことで、古代の生活に思いを馳せることができるのが古墳の最大の魅力です。 ー中学生の内に達成したい目標はありますか? 岡山県の古墳以外に、島根県や兵庫県、大阪府や奈良県など岡山周辺の府県の古墳を見学し、岡山県では古墳を含めた史跡の活用が遅れていることを実感しています。岡山では、墳丘が整備復元された古墳が少なく、古墳に併設する展示施設もあまり無いため、貴重な出土品が県外で保管・展示されていたり、訪れにくい古墳が多かったりすることが問題だと思います。 解決策として、より多くの人たちが地元の古墳に興味を持ち、行政と一体となって古墳の保存や活用をさらに進めることで、県内の古墳から出土した貴重な品々が地元の博物館で見学できたり、墳丘や石室が崩れた古墳が整備されて見学しやすくなったりすると考えています。 そのために僕は、古墳の魅力をより多くの人に発信し、古墳に興味を持つ人たちと専門家の先生たちを結びつける役割を担うような仕事を起業したいと思っています。 ー将来の夢は何ですか? 考古学者です。古墳を発掘調査して墳丘や出土品を研究し、古代の謎の解明に挑戦したいです。また研究成果をもとに古墳の魅力を発信し、より多くの人たちに古墳に興味を持ってもらえるようにしていきたいです。古代の人々の営みを理解し、得られた知見を未来へと繋げて、今後の文化の発展に貢献できるような考古学者になりたいです。 ■子どもの〝関心から興味へ、興味から探究へ〟と繋がった学びは、今や家族共通の趣味に! ー子育てをするうえで大切にしていることは何ですか? 息子は幼い頃から寺社仏閣や城郭に興味を持ち、コロナ禍から古墳の面白さに目覚めて、史跡巡りをしています。その反面、マンガやアニメ、ゲームなど、同級生の間で流行している趣味にあまり興味がなく、学校で話題が合わず疎外感を感じることもありました。親としては、「鉄は熱いうちに打て」というように、息子が関心を示した事柄を否定せず、一緒に史跡を巡ったり調べたりして、関心から興味へ、興味から探究へと、より深くより広い学びに繋がるように促すことを心掛けています。 ーご家族の皆さんは、もともと歴史好きでしたか? 父も母も理系人間で、それほど歴史に興味はありませんでした。息子が古墳にハマったことをきっかけに、家族で古墳巡りをしたり、訪れた古墳や次に行く古墳について調べたりすることで、今では両親もどっぷり古墳にハマっています。 ー郁仁くんが『歴史好きでよかった!』と思った瞬間はどんな時ですか? 息子が古墳を好きになったことで、両親も古墳に興味を持ち、家族が同じ趣味を共有するようになりました。泊まりがけで県外の古墳を探しに行ったり、博物館の学芸員さんや古墳好きの方々、古墳グッズを製作されている方々など、さまざまな人たちと交流することも楽しいです。 古墳を見学して説明を聞き、調べ学習をする過程で、分からないことがたくさん出てきます。例えば、専門の方々が古墳を調査する際は、発掘調査だけでなく、レーダー測量やミュオンラジオグラフィーを使って調査したり、出土人骨の放射性同位体やDNAの塩基配列を解析したり、周辺地域の地形の成り立ちや土地利用の変遷を調べたりしています。古墳の石室や石棺には花崗岩や凝灰岩、緑色片岩などさまざまな種類の石材が使われていて、古墳が築かれた背景を解明するには石材の分析が欠かせません。 これらの興味深い研究成果を理解するために、息子も、歴史だけでなく、地理や数学、幅広い理科の勉強も意識して取り組むようになりました。また学んだ古墳の知識を海外にも発信できるよう、英語の勉強も頑張っています。古墳から多方面の学習を深められることも、良い影響だと思います。 郁仁くん、板東家の皆さま。取材にご協力頂きましてありがとうございました!
歴史人Kids編集部