美しい白黒映像と色香が観客を魅了 70年以上に及ぶキャリアでも…とりわけ素晴らしい1本「ローラ」(1961年)
【世界美女目録 アヌーク・エーメという女優】 「映画史上最もセクシーな女優のひとり」と評されたアヌーク・エーメ。恋多き女としても知られて、4度の結婚と離婚を繰り返している。 そして70年以上に及ぶキャリアでも、とりわけ素晴らしい1本が「ローラ」(1961年、ジャック・ドゥミ監督)。監督自身が「音楽のないミュージカル」と評したロマンチックな物語だ。 元はヨーゼフ・シュテルンベルク監督の「嘆きの天使」(30年)でマレーネ・ディートリヒがバーレスクのパフォーマーを演じて彼女を一躍有名にしたミュージカル。それを再構築した。 オリジナルのフィルムは火事で損傷したため長らく見ることができなかった。何度も修復され、ようやく2012年にデジタルリマスター版が完成した。技術者の努力のたまものなのだ。 企画段階では初のカラーのミュージカルになる予定だった。だが新進気鋭の監督ということで製作者が見つからずポシャる寸前だったが、ゴダールが「勝手にしやがれ」のプロデューサーに声をかけたことで息を吹き返す。再スタートを切ったが、低予算のためモノクロの無声に〝降格〟。しかしこれが功を奏して、公開されると「ヌーベル・ヴァーグの真珠」とまでたたえられた。美しい白黒映像がアヌークの衣装、軽妙なダンサーの色香とあいまって観客の目をくぎ付けにした。とりわけ彼女の演技がディートリヒをほうふつさせると絶賛された。 舞台となったフランスの港町ナントには、パッサージュ・ポムレという有名なアーケード街があり、何度も出てくる。そこで、ローラ(アヌーク)はロランドに「あなたのことは好きだけど、愛していない」というシーンがある。またローラは14歳の少女セシルに「初恋は特別よ、だって2度と起きないのだから」という。忘れられないミシェルのことを指しているのだ。 室内に注ぐ陽光に逆光のアヌークのシルエットが何ともエレガント。ギリシャ彫刻のような彫りの深さがくっきり。そして波打つ髪やけだるい動作が浮かび上がる。単なる美しさではなくどこかに悲しみをたたえた瞳の叙情性はまるで謎の多い哲学書のようだ。 アヌークにとって「男と女」の52年後を描いた「男と女 人生最良の日々」(2019年、クロード・ルルーシュ監督)が最後の作品となった。 (望月苑巳) 【次週はペリー荻野さんの「奇数が当たる!? 集団時代劇の世界」です】
■アヌーク・エーメ 1932年4月27日、パリで生まれる。映画デビューは47年の「密会」。2024年6月18日、92歳で死去した。名前は日本ではエメ、エメーとも呼ばれた。