アングル:スリーマイル原発、AI電力需要で進む前代未聞の再稼働プロジェクト
Laila Kearney [スリーマイル島(ペンシルベニア州)、23日 ロイター] - 米コンステレーション・エナジーが所有するペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所(TMI)。その巨大な冷却塔は休眠状態があまりにも長く続いたために、基礎の空洞部分には雑草が生い茂り、野生動物が内部を走り回っている。 閉鎖中のコンクリート施設は有刺鉄線に囲まれ、入口に設けられた武装守衛所は無人のままだ。稼働していた当時は騒音がひどく、所員は防音保護具を着用しなければならなかったが、いまは静寂が辺りを包んでいる。 先週実施された発電所視察ツアーの際、コンステレーションのクレイグ・スミス規制遵守担当マネジャーは、「今もここを歩くと不気味に感じる。とにかく静かだ」と語った。コンステレーションが同発電所で最後まで稼働していた1号機の原子炉を2019年に停止した当時も、スミス氏はここで勤務していた。今はその再稼働に向けて準備を進めている。 コンステレーションは先月、マイクロソフトのデータセンター向けの電力供給のため、操業開始から半世紀を経たTMIを復活させると発表した。マイクロソフトは20年間の電力購入契約で、1メガワット時あたり最低100ドル(約1万5200円)を支払うとみられている。この地域における再生可能エネルギーによる通常の電力料金の2倍近い料金だ。 AI事業の拡大に必要な電力の確保に向けた大手IT企業の本気度と、その需要に応じようとする米国電力産業を挙げた取り組みが、この再開合意からは読み取れる。 TMI1号機の再稼働は、退役した原発の再稼働という前例のない任務になる。4年の期間と最低16億ドルの費用、そして数千人の作業員が必要になると見込まれている。 コンステレーションは来年初頭にも開始予定の再稼働作業に向けて、すでに必要となる高額な設備を発注し、1号機の炉心に供給する燃料を決定しているという。同社幹部や下請け企業へのロイターのインタビューと、発電所視察ツアーの中で明らかになった。 TMIは1979年に2号機が部分的メルトダウンを起こしたことで有名であり、数十年にわたって国内原子力産業に暗い影を落としてきたが、再稼働に漕ぎつければ米原子力産業復活の先触れとなる。 原子力は、二酸化炭素を排出することなく膨大な量の電力を生み出す。マイクロソフトのように、気候変動対策を掲げる一方で、電力の大量消費に対する社会的な批判の高まりに直面している企業にとっては魅力的だ。 TMIが再稼動すれば、同地域の送電網に835メガワットの電力を供給することになる。これはフィラデルフィア全世帯の電力需要を十分賄う規模で、マイクロソフトによる電力消費分も帳消しにできる。 だが、再稼動が確実とは言い切れない。TMIは「クレーン・クリーン・エナジー・コンプレックス」に改称される予定だが、事業認可の修正と再稼動の許可を取得しなければならない。地元の活動家は、安全性と環境に関する懸念を理由に、再稼動プロジェクトへの反対を宣言している。 電力産業の専門家によれば、この再稼動プロジェクトが、過去の米国の原子力開発のほぼすべてに付きまとった長期の遅延とコスト超過に悩まされることになれば、他の案件にも支障が生じ、大手IT企業の急成長への挑戦にとっても逆風になるという。 <広大な施設> コンステレーションは今年初め、TMI1号機の再稼働が採算面で合理的かどうかを見極めるための予備試験を完了した。 交換すれば数百万ドルの費用が必要になる主発電機の状態が良好であることが確認できたため、コンステレーションは計画を先に進めた。 「主発電機はすぐにも使用できる状態で、発電所の残りの部分が動き出すのを待つだけだ」と、スミス氏は立ち並ぶ巨大なタービンの前で語った。 ペンシルベニア州建設業協会のロブ・ベアー総裁は、建設作業員、電気技師、配管工その他の技術者約1000人が現場に派遣される見込みだと話す。 作業は、発電所の停止後に装置が撤去された高さ113メートルの冷却塔2基の修復から着手される可能性が高い。 「冷却塔には膨大な量の装置を戻さなければならない」とベアー総裁は言う。同氏の父親は、1974年に操業を開始した1号機の建設に参加した。 作業員は冷却塔の頂上に登り、照明を設置し、内側から設備を復旧していく。かつてはセコイア材で作られていた構造物の基礎は、現代的な建材を使って一新される。 続いて、発電所内部の修復作業が行われる。主要設備の一部は交換される。コンステレーションは最近、設置費用を含めて約1億ドルとされる同発電所の主変圧器を発注しており、納品予定は2027年となっている。 さらに、配管及び電気工事、復水器の洗浄、発電機の清掃が行われる。容量100万ガロンのタンクにも水が満たされる。 1970年代初頭に設置されたパネルを含めアナログ方式の機器が並ぶ制御室は、大部分がそのまま残される。担当者によると、アナログ方式のシステムを維持することで、サイバー攻撃に対する安全性が高まるメリットがあるという。 作業を遂行するには、累計数百万フィートに及ぶ足場が繰り返し発電所の周囲に組まれることになる。担当するのは、建設作業員の中でも特別な資格を持つ足場職人だ。 「こうした作業がすべて完了して、ようやく発電所への燃料の搬入が可能になる」と、ベアー氏は言う。 原子力発電事業者として米国最大手のコンステレーションは、再稼動に向けた最後のステップの1つとして、自社が用意している濃縮ウラン備蓄を核燃料として利用する予定だ。 スプロット・アセット・マネジメントのジョン・シャンパグリア最高経営責任者(CEO)によれば、TMI再稼動は、低価格の燃料との競争やメルトダウンの脅威に悩まされてきた米原子力産業にとって、最新の巻き返しの一部となる。スプロットは、ウラン現物を原資産とする大型ファンドを運用している。 ミシガン州では、ホルテック・インターナショナルが別の原子炉の再稼働に向けたプロセスを進めている。 来年の米国の電力消費が過去最高となり、データセンターによる電力需要が2030年までに倍増するという新たな予想を反映し、コンステレーションの株価は年初来135%上昇している。 ただ原発再稼動という展望に誰もが熱狂しているわけではない。原子力発電所から出る使用済み核燃料は、数千年にわたって放射能を帯び続ける。 サスケハンナ川の中洲にあるTMIには、1号機からテニスコートほぼ1面を埋める量の使用済み核燃料が保管されている。事故を起こした2号機の廃炉作業は部分的メルトダウンから45年経った現在もまだ道半ばだ。 地元の活動家エリック・エプスタイン氏は、1979年の事故を今も覚えている。コンステレーションによる再稼動と水利権取得の申請には反対するつもりだ。 「長い闘いになるだろう」とエプスタイン氏は話した。 (翻訳:エァクレーレン)