ゾンビ映画の父ジョージ・A・ロメロは「ホラーで社会風刺」にも成功した
■ゾンビよりおぞましい人間の獣性も描かれる
メインの登場人物4人は、郊外のショッピングセンターに立てこもり、襲撃してくるゾンビの群れに立ち向かう。この映画におけるゾンビは動きがゆっくりだ。だから物質文明のメタファー(隠喩)であるショッピングセンターでは、ゾンビ狩りに熱中する人たちや、食料をめぐる人間同士の殺し合いなど、ゾンビよりもおぞましい人間の獣性も描かれる。 ラストでヘリに乗って脱出に成功するのは、操縦を覚えたばかりの妊婦と黒人の元SWAT(特殊部隊)隊員だ。女性と民族的マイノリティー。それまでのハリウッド映画ならば、絶対に生き残れない2人だろう。つまりロメロはゾンビ映画を確立させると同時に、ホラーで現代社会を風刺するという手法にも成功した。 ロメロの『ゾンビ』以降、映画だけではなく小説やコミック、ゲームなども含めて、ゾンビは一つのジャンルとなった。でもやっぱり、ホラーで社会風刺という設定においては、いまだにロメロを超えた作品を僕は観たことがない。 『ゾンビ』(1978年) 監督/ジョージ・A・ロメロ 出演/デビッド・エムゲ、ケン・フォリー、スコット・H・ライニガー <本誌2024年3月5日号掲載>
森達也(映画監督、作家)