「墓じまい」急ピッチで進む 東北は10年で2割増
人生の最期に向けて準備する「終活」の一環で、先祖が眠る墓を処分する「墓じまい(改葬)」が東北でも急速に広がっている。直近10年で件数は2割増え、仙台市営の墓地に限れば4倍に急増している。維持する負担を子孫に残したくないとの思いや、単身世帯の増加といった家族の在り方の変化が背景にある。「バーチャル霊園」など墓じまいをサポートする葬儀業界のサービスも関心を集める。(経済部・菊間深哉) 【グラフ】東北6県の墓じまい件数 ■子孫の維持負担考慮 少子化や非婚化も影響 厚生労働省衛生行政報告例によると、墓石を撤去し更地に戻して敷地を墓地の管理者に返還する「改葬」の東北6県の件数はグラフ(1)の通り。2013年度からの10年間で緩やかに増加傾向をたどり、22年度は13年度比で20・8%増の8805件に上った。 仙台市の公営墓地は、高度成長期に東北各県から流入した人々に墓を供給してきた。世代が変わっていく中で、墓じまいは極めて急ピッチで進んでいる。市健康福祉局事業概要によると、改葬件数はグラフ(2)の通り。3カ所の墓地で23年度は計349件に増え、10年間で4・3倍となった。 市の担当者は「ここ数年で墓の需要が急激に変わった。23年度は従来型の墓の返還件数が、新たな貸出件数を初めて上回った」と説明する。 墓じまいで再び貸し出しに回った市営墓地の区画は、成約されずに空きになるケースが多い。少子化や非婚化といった家族の在り方の変化に伴い、代々跡継ぎが必要な従来型の墓は敬遠される傾向が強まる。 宮城、山形、東京の3都県で墓石小売店を展開するまつしまメモリーランド(宮城県松島町)は、今年から墓じまいの流れを紹介した無料ガイドブックの配布を始めた。従来型の墓に加え、複数の遺骨をまとめて埋葬する「合祀(ごうし)墓」や樹木葬、納骨堂、散骨といった多様な選択肢を提示する。 23年度の主な契約件数の25%を墓じまいが占め、10年前の13年度(1%)から急増しており、墓じまいの実態を事前に正しく理解してもらう必要があった。 岡部健司専務は「墓は解体して終わりではなく、先祖の遺骨をどこかに移さなくてはいけない。合祀墓など次世代の負担の少ない改葬先を選んでおくのが、生前の親の責任と見られるような風潮に、いつの間にかなってきた」と明かす。 葬祭業の清月記(仙台市)は、墓じまいが増えたことで遺骨を海にまく「海洋葬」の件数がここ数年、倍増を重ねている。ニーズの変化を先取りするとして、年内にも大手商社と連携した「バーチャル霊園」事業をスタートさせる。 故人の写真や文章といった思い出を親戚や友人同士で共有できるインターネット上の「お墓」で、物理的な墓がなくても故人の人生を思い返すことができる。 菅原裕典社長は「社会の変化で墓参りの機会が減っており、そもそも墓は必要なのかという話になる。納骨堂や樹木葬は一気に墓じまいするまでの一時的な形態のように思える。墓がなくても、弔う気持ちは残るはずだ」と指摘する。 ■「無縁墓」増加の懸念 先祖の墓を撤去する「墓じまい」が広がる中、墓を継いだ人が確認できず放置される「無縁墓」の増加が懸念されている。墓の維持が困難になったものの、お金をかけてまで墓じまいをしなかったケースだ。墓や家族を巡る社会の変化により、遺骨を誰も引き取らない「無縁遺骨」も急増している。 仙台市によると、市営墓地3カ所の無縁墓は8月1日時点で計50件。過去のデータは残っていないが「毎年度、数件ずつ増えている感覚」(担当者)という。 50件の現況を分析すると、区画を購入しただけの更地が3件、墓石は建てたものの未納骨が12件、納骨済みが35件となっている。市営墓地は区画が余っているため、費用対効果などの観点を踏まえると、建立済みの墓石を市が撤去し、再整備する対応は考えづらい。 市が2020年度に実施した「お墓に関する市民意識調査」によると、墓所有者の最大の心配事は「お墓を守り続けられるか不安」(27・1%)。墓所有者のうち、今後10~30年で墓の維持が難しくなると考える人の割合は55・0%に上った。1989年度の同様の調査では、墓所有者の最大の心配事は「(お墓が)遠い」(26・1%)だった。 墓や家族を巡る社会環境の変化は、遺骨を誰も引き取らない「無縁遺骨」の増加にも現れる。仙台市は市無縁故者納骨堂(青葉区)に無縁遺骨を埋葬する。23年度に引き受けたのは201件で、13年度(59件)に比べ3・4倍に急増した。 真宗大谷派西照寺(泉区)の星研良住職は「家ごとに墓を守る考えが生まれたのは、かなり近代になってから。それが高度成長期と重なり、誰もが墓を建てるようになった。人が死者から切り離されることはないが、死者を思う形が時代に合わせて変わっていくのは自然なことだ」と話す。
河北新報