吉澤嘉代子にとって「魔女」とは何か。デビュー10 周年を迎えたいま、 あらためて聞く
今年(2024年)デビュー10周年を迎えた吉澤嘉代子が、デビュー日である5月14日に単独公演『吉澤嘉代子10周年記念公演 まだまだ魔女修行中。』をLINE CUBE SHIBUYAで開催した。少女時代に魔女に憧れ、魔女になるための修行をしていた吉澤は、その変身願望を曲づくりの原動力にして、この10年でたくさんの名曲を生み出してきた。小中学生時に不登校を経験した吉澤にとって、魔女修行は生きる術であり、いまも彼女はその頃の自分に向けて、その頃の自分と同じような感覚を持つすべての人に向けて、歌をつくり続けている。 【画像】吉澤嘉代子 そこで今回の取材ではあらためて「魔女」をキーワードに、この10年の歩みを振り返ってもらった。物語における魔女の描かれ方がときに時代の映し鏡となるように、吉澤も時代と向き合いながら、そのなかでいかにして普遍的な美しさや滑稽さを感じさせる楽曲を生み出してきたのか。そして、現代における言葉と心のあり方について、どのように考えているのか。そんなことをめぐる対話から、いまも魔法を信じ続ける吉澤嘉代子という表現者の軸にあるものを感じてもらいたい。
「魔女」は「変身」を意味している
―まずは10周年記念公演の『まだまだ魔女修行中。』というタイトルに込めた想いを聞かせてください。 吉澤:この10年を振り返って、歌で食べてこられたことが奇跡のようだなと思っていて。10年間歌をつくって歌うことだけで暮らせたので、その感謝の気持ちが溢れているというか、感謝祭というか、いまはそんな状態なんですけど。 それで、今回のライブのセットリストを考えるなかで、自分が選ぶ曲は変身する曲ばかりだと思ったんです。子どもの頃からやりたいこととかつくりたいものが変わらず、曲のなかで主人公に変身するみたいなことをずっと続けてきて。私のなかで「魔女」は変身を意味しているんです。 それはずっと大事なテーマで、子ども時代の自分と、その周りにあったものたちをいまも引き連れてる感覚があるので、今回もみんなをおめでたい場所に連れて行きたいというか。なので、ふざけたタイトルなんですけど、でも真面目につけました。 ―そもそもいつどういうきっかけで魔女に憧れて、魔女修行をするようになったのか、あらためて話していただけますか? 吉澤:最初どんなふうにお話したかなと思って、今朝、10年前に金子さんにしていただいたインタビューを読み返していたんですけど、そのときは「なんかわかんないけど、子どもの頃魔女にさらわれる夢を見て、それも理由としてあるのかな」みたいな感じで話していて。あれから10年経って、私、この話を口からテープを再生するみたいに話せるようになっていたんです。「どうして魔女になろうと思ったんですか?」「はい、なぜなら私は~」って、就活生みたいな感じ(笑)。 でも記事を読み返して、最初はもっとぼんやりしたものだったことを思い出せて、インタビューは貴重だなと思いました。もちろん(魔女修行を始めたのは)その夢がきっかけのひとつではあると思うんですけど、じゃあなんでそんな夢を見たのかというと、そういう存在をずっと欲していて、それが願望となって夢に現れたのかなって。 「いつか王子さまが迎えに来てくれる」みたいな存在が、私にとっては魔女だった。そんなふうになにかを待ち焦がれることによって、子ども時代をどうにか過ごしていたんだろうなって。 ―当時はまだ恥ずかしい過去というか、ある種のコンプレックスで、あまり引っ張り出したくない過去だったけど、そこから時間を経て、自分のなかで消化できたからこそ、面接のようにスラスラと喋れるようになったのかもしれないですね(笑)。 吉澤:そうですね。私の曲を聴いてくださった方がお手紙をくれて、そこに「自分も同じような子どもだった」とか「自分も同じような子どもだ」みたいなことを書いてくれていて。もともと私の歌はあの頃の自分みたいな人に届いてほしい気持ちがあるから、そういう反応があったことで、より整理してお話しできるようになったし、声もどんどん大きくなったんだと思います。 ―「私も魔女修行してました / してます」みたいな手紙が届くようになったと。 吉澤:こういうお仕事でずっと自分のことを話していると、そういうこともあるんだなって。「魔女修行をしてた」っていう人はそんなにたくさんいるわけじゃないですけど、近しい気持ちを持っている人は老若男女問わずたくさんいる。私が本を読んで、いろんなキャラクターや物語と出会ってきたように、私の曲を聴いて、同じように感じてくださった方から感想をいただいたくことはすごく嬉しいです。