『虎に翼』“出る杭”だった寅子が理想の上司に よねにしか言えない辛辣で優しい言葉
徹底して当事者の目線に寄り添う『虎に翼』
よねの言葉は本作の核心をついていた。『虎に翼』は徹底して当事者意識に貫かれており、その根底に憲法が掲げる個人の尊厳があることは明らかだ。尊厳は個々の選択として発現する。司法試験に合格した涼子(桜井ユキ)は修習へ行かないと告げる。それは「世の中への私なりの股間の蹴り上げ方」である。涼子が言う「心の中にいるよね」は、よねを含む女子部の絆を指している。涼子の「お気立てに難がある」をよねが覚えていたことも味わい深かった。 家裁に異動した朋一(井上祐貴)は、航一(岡田将生)と寅子に裁判官を辞めたいと打ち明けた。朋一が抱く理想は挫折し、真紀(藤丸千)からも離婚を告げられた。悩める息子を「何も間違っていない。謝ることなど何一つない」と全肯定した航一は、桂場(松山ケンイチ)のもとへ向かう。 本作は主人公たちが悩む姿を描いてきた。私見だが、法律家は悩む仕事ではないだろうか? 依頼人のため、事件解決のため悩み、「はて?」と疑問を抱いては答えを出そうともがく。答えが正解かどうかも重要だが、悩んだ過程そのものが結果的に多くの人の道しるべになる。そのようにして物語を前へ運んできた『虎に翼』が、最後に何を伝えるか刮目して見守りたい。
石河コウヘイ