筋肉少女帯・大槻ケンヂが"幻想私小説"に込めた「現実にあらがうための希望」とは
――なるほど。今作を読むとバンギャやコンカフェで働くコたちなど、大槻さんの興味が若い女性へ強く向いていることもわかりました。何かきっかけが? 大槻 それこそ『週刊プレイボーイ』に載っている若い女性のグラビアなんかを見ると、有無を言わさぬ"未来力"を感じますよね。今の自分にはそれが一番ないから憧れるんです(笑)。 コロナ禍の頃はコンカフェで働く女のコが元気に配信しているツイキャスをよく見ていました。自分の手のひらの中にいる女のコがたわいもない話をし、それを自分がのぞき見ている。 一度、寺山修司はのぞきで捕まったことがあるので「これは寺山修司的だよなあ」と(笑)。 ――今作には、若いファンに「あなたは現代のソクラテスです」と声をかけられるエピソードも登場します。大槻さんは一方でリスペクトの対象でもあります。 大槻 最近、若いミュージシャンとフェスで一緒になると、緊張している人が多いんです。「俺、敬われている!」と思うとありがたくはあるけど......でも、困っちゃうんだよなあ(苦笑)。年は違っても同じところで切磋琢磨しているミュージシャン同士だから、もっと一緒にセッションとかしたいのに。 その点、この本にも出てくる、亡くなった頭脳警察のPANTAさんは本当に包容力がありました。いい人で、スマートに後輩の気を使わせないんです。ああいう先輩にならなきゃいけないなと思って。 ――それにしても、オーケンが還暦間近という事実は驚きです。 大槻 僕、オカルトが好きなんですけど、UFO研究家にジョージ・アダムスキーって人がいるんですね。彼は「宇宙人に会った」と公表することで世界一有名なUFOコンタクティになったんですが、アダムスキーが初めて宇宙人に会ったのは61歳のときなんです。 それがすごい励みで。アダムスキーでたとえたら、僕はまだ金星人にも会っちゃいねえんだと思うと「これからじゃん!」って。 ......という空想の部分がありつつ、自分と同世代のミュージシャンが亡くなってきているという現実もあります。この本を書いているうちに、同い年だったBUCK-TICKの櫻井(敦司)さんも亡くなりました。今、僕はあしき現実と良き空想の物語のはざまにいるんですね。 だからこそ、「さあ、これからどうなる!?」という気持ちが僕にこの本を書かせたのだと思います。80代であれだけ踊ってるミック・ジャガーみたいなどうかしているジジイもいるし(笑)。だから、自分でもこれからが本当に楽しみですよ。 ■ 大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ) 1966年生まれ。82年に中学校の同級生だった内田雄一郎と共にロックバンド「筋肉少女帯」を結成。88年にアルバム『仏陀L』でメジャーデビュー。筋肉少女帯のほか、バンド「特撮」のメンバーとしても活動。また、作家としても、94年『くるぐる使い』、95年『のの子復讐ジグジグ』で、日本SF大会日本短編部門「星雲賞」を2年連続で受賞。ほかにも『グミ・チョコレート・パイン』『ロッキン・ホース・バレリーナ』『ゴスロリ幻想劇場』『ロコ! 思うままに』など ■『今のことしか書かないで』 ぴあ 1760円(税込) ロックミュージシャン・作家の大槻ケンヂが、ここ2週間以内に起こった個人的なトピックをつづるクスッと笑える連載エッセイ......だったはずが、章が進むにつれ"限りなくエッセイに近い幻想私小説"へと、その内容は思いも寄らぬ変化を遂げていく! リアルとフェイクが入り交じった、著者も仰天のナゾ面白い最新刊。大槻にとって私小説的エッセイとしては10年ぶり、小説としては実に18年ぶりとなる"現在進行形のオーケン"が詰まった一冊 取材・文/寺西ジャジューカ