黒覆面をかぶった「仕掛け人」…通天閣観光副社長・高井隆光さん
ネタ探しに大阪市浪速区の通天閣へ行き、アポなしで受付の男性に取材を申し込むと数分後に「ようこそ」の声。振り向くと、立派な角付きの黒覆面をかぶった男性が突然名刺を差し出し、書かれていた役職に驚いた。通天閣観光副社長の高井隆光さん(38)だったからだ。 あいさつもつかの間、今度は別の覆面姿で「これええでしょ!」と言いながら受付前に置かれたバイクにまたがる。その後方には、口をあけたビリケンの外壁に「オーサカの休日」と書かれた看板。通天閣の中には「どっかで見たことあるような?」という「仕掛け」がたくさんあるが、不思議とすぐになじめてしまう。「おもろいでしょ。まあもし抗議きたら、すぐやめますわ」とあっけらかんと話すところが、またおもろい。
そんな高井さんが副社長に就任したのは2005年。最初に仕掛けたのは「通天閣ビリケンさん」の東京で開催されるイベントへの出張企画だった。「周囲から『神様を移動させるんはアカン?』といった反対の声もあったんですけど実行にこぎつけました。移動の時はビリケンさんをリムジンに乗せ、シートベルトを着けて移動しましてん」と新聞スクラップを眺めながら当時の様子を振り返る。 恒例行事もいくつか生みだしているが、毎年2月のバレンタインデー時期には夜間にキスをしたら入場料が半額となる「チュー天閣」を実施。「この周辺の夜間が怖いというイメージを払しょくし、夜でもカップルや女性同士が来てもらいやすい場になればと思ってネーミングも考えたんですわ。ほんなら毎年、男性、女性同士で『チュー』して入る人も多なりました」。ただ、スタッフは少し照れくさいとか。
ある日、お土産コーナーでは売り物のお菓子に「通天閣」と書かれたシールが張られていた。「実はこれらのお菓子が、お土産で売れてるんです。なんでお菓子やねんって感じでしょ(笑)」。だが、このシールは従業員らと夜中までかけ、手で張るなど地道な作業を繰り返しているという。 毎日多くの人が訪れる観光スポットとなっているが、あるお客さんのこんな声も心に残る。「『飛行機で伊丹へ降りる時、通天閣をみたら大阪へ帰ってきたぞーと思うねん。ありがとう』と言われたんです。大阪の皆さんは、通天閣にそれぞれの思い出がいっぱいあるんやなあって感じてます。自分もここで生まれ育ったしうれしいんです」。こんな思いとおもろさを胸に、高井さんは次にどんな「仕掛け」を展開していくのか。通天閣はこれからも熱い。