朝ドラ『虎に翼』脚本・吉田恵里香さん「育児中の今、あえて諦めていること」とは?|VERY
「正しい育児」かどうかはあとにならないとわからない
──お子さんは3歳の男の子。締め切りのある長編の執筆を続けるなかで、子育てとの良いバランスは見つけられていますか? 正直、仕事は思うように進まないですね。寝かしつけてから仕事をしたくても、息子もだんだん体力がついてきて、こちらが望む時間にはそうそう簡単に寝てくれません(笑)。私も疲れて寝落ちしちゃうし、仕事中も「そろそろ髪切りに連れていかなきゃ」「予防接種に行かなきゃ」など色々なことが頭の中を巡ります。若い頃は2日間徹夜することだってざらにあったので子育てもいけるかな、と思っていたのですが……。 ──今はどのタイミングでお仕事を? まとまって仕事ができる時間は息子が保育園へ行っている朝9時から夕方6時半の間です。園にお迎えに行ってから夜ご飯を食べて、お風呂に入ったり、短時間でも一緒に遊ぶ時間を作ったりしていると、寝るのは早くて10時半くらいに。でも息子がしたいということは、できるだけ叶えてあげたいとも思っているんです。頭では仕方ないと思っていても、どこか負い目を感じてしまうことがあって。 ──負い目、とはどんなことでしょうか? 仕事がハードモードになってきたり、睡眠不足やホルモンバランスの乱れでピリピリしているときに限って「今日は1日遊んでいたい、おうちにいたい」と言うことがあるんです。偶然なのかもしれないですが、3歳ながら母親の余裕のない様子を感じ取っているんだな、とハッとすることがあります。長く専業主婦だった私の母のようにずっと子どものそばにいることは難しい。けれど、完璧でなくても子どもがやりたいといったことはなるべく一緒にやってあげたいなと思います。「アイス屋さんごっこをしたいから折り紙でアイスを作って」とか「お風呂でどうしてもグミを食べてみたい」とか、息子のリクエストはそんなに難しいことじゃないんですけど(笑)。
──今、私(ライター)は1歳の息子を育てているのですが、すでにYouTubeに頼ってしまう場面があります。吉田さんはどのように折り合いをつけていますか? 私も「YouTubeを見せすぎてしまった」「またお菓子をあげてしまった」と悩んでいた時期がありました。でも今は、息子が「今日も楽しかった!」と思って寝てくれたらいいと思うようになりました。人を傷つけるような危険なことは絶対にダメだというけれど、それ以外のことはなるべく希望をかなえてあげたい。机にクレヨンで絵を描きたいと言われたら、「本当は紙に描くんだよ」と伝えてから自由にやらせています。楽しいならまあいいか!の精神ですね。 面白い本にたくさん触れてほしいと思って、2歳くらいまでは毎日絵本を10冊読んでいたのですが、息子が楽しくなさそうで(笑)、単にルーティン化すればいいわけじゃないと気づきました。今は、1日1冊でも読んでくれたら、めっけもん!くらいの気持ちです。ときどき自分から20冊くらい「読んで!」と持ってくることもあるので、どうしたの? こんなに読めるかなと逆に驚くこともありますが(笑)。親が思う100点満点の育児なんて無理だから、今は楽しさを重視。彼にとってこれが「正解」だったかどうかは大人になるまでわからない。けれど、今は「何を大事にするか」が決まっていれば良いのだと思っています。 Profile 吉田恵里香さん(よしだえりか) 脚本家・小説家。1987年生まれ。代表作は、テレビドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』、『花のち晴れ~花男 Next Season~』、映画『ヒロイン失格』『センセイ君主』など。『恋せぬふたり』で第40回向田邦子賞、ギャラクシー賞を受賞。2024年4月放送開始予定のNHK連続テレビ小説『虎に翼』では脚本を担当。プライベートでは、3歳の男の子の母でもある。 取材・文/藤井そのこ 撮影/古本麻由未