ーファッション企業としては、どのような点に生成AIを活用したいと考えていたのでしょうか。 まずはサンプルデザインのアイデア出し、キャッチコピーの作成、ECサイトの商品タイトルや説明文の作成など、AIの活用については各社とも同様のイメージを持たれていた印象です。 そのうえで、導入企業においては、特に若い社員などは自らプロンプト（AIとの対話において、ユーザーが入力する質問や指示のこと）を作成するなど、積極的に活用しているなと実感しています。 まだβ版ではありますが、月に一人当たりで15時間の業務が削減できた事例などが出てきています。

「Maison AI」の課題と可能性

画像提供：株式会社OpenFashion

ー「Maison AI」の導入を進めるなかで、課題としてはどのようなものが出てきましたか。 ある程度の企業規模になると導入後にどれだけ使用されるか、「浸透率」が課題だと感じます。そもそも、生成AIを利用している企業における社内の生成AI浸透率は10～20%ぐらいと言われていますが、私たちのツールを導入している企業の浸透率も同じくらいだと感じています。 若い方々は比較的使いこなせる傾向にあるのですが、やはりファッション業界は歴史のある企業が多く、年次が高い社員も多いので「社内に導入しても使いこなせないかも知れない」とおっしゃられるケースもありました。

ー具体的には、何がハードルになっているのでしょうか。 現時点では人間の方が優秀な部分もあるので、生成AIを使わずともわからないことがあれば同僚などに聞いて仕事をするケースも多く、「AIに考えさせること」ができなくてもいいという状況がありますし、「そもそもどういうプロンプトを打てばいいかわからない」という人も多くいます。

たとえば、「縫製ラインの組み立て」のプロンプトのテンプレートは次のようになります。 「縫製ラインを組み立てるために、以下のアイテムの縫製手順を記載してください。パーツ別に裁断済みの状態からスタートしてください。 #アイテム {{ スタンドカラーシャツ}} 」 このように、業務をある程度俯瞰して、それをプロンプトに落とし込んでAIを活用できる人は、まだまだ少ないと言えます。 そこで、私たちとしては「Maion AI」を単にツールとして提供するのではなく、いかにお客様と一緒に導入からツールの社内浸透まで伴走できるかが重要になってくると考えています。 より具体的には、一般的なSaaSと呼ばれるサービスにはセールスがいて、カスタマーサクセスがいて、プロダクトチームがいて、システムやツールを作ったりしていましたが、ここに「プロンプトエンジニアチーム」が必要だと感じています。 つまり、人間にとってのガイドブックであり、マニュアルとなる「プロンプトリスト」を私たちで制作することで、AIに仕事をさせてレビューできることを容易にしたいと考えています。 そこで社内において、今年からプロンプトエンジニアチームを作り始めているところです。 基本的にはある程度業務理解があるエンジニアがプロンプトを設計して作る形を想定しており、今後どの業界でも求められる役割だと思います。 ーそれでは最後に、今後の「Maison AI」の展開や、貴社としてAIを通して実現したいことについて教えて下さい。 「Maison AI」は短期的には業務アシストツールにも見えますが、中期的には現在の業務の大半を自動化するツールとなることを目指しています。 それにより、人間はよりクリエイティブな、想像力が求められるような取り組みに注力できるようにするとともに、廃棄や在庫問題などファッション業界が抱えている課題に時間を使えるようにしたいと考えています。 今のファッション業界は、さまざまな業務が効率化されておらず、利益率も低い。これからを担う若い人にとっては給料面など、他の業界と比べて魅力的ではない部分もまだ多いと感じています。 そのなかで、私たちが展開する「Maison AI」をはじめとするAIを活用したサービスが活用され、業務効率を上げられれば、全体としての利益率が上がり、給料も上がります。 ファッション業界が持っているポテンシャルを、私たちで押し上げられるようにしたいと考えています。