わたしをお姫様抱っこしてくれたイケおじはだれ?不思議なおじさんと気苦労ОLのじれきゅんラブストーリー【書評】
『殊子とおじさん 縁と月日』(水島ライカ/KADOKAWA)は、忘れられる辛さとその先を描いたラブストーリーだ。 【漫画】本編を読む
他人の感情を読み取りすぎて苦労するOL・椎名殊子。空気が読めることは長所とも言えるが、他人の感情に振り回されて疲れてしまうという辛さもある。それゆえ、一生独り身でいいと思っていた殊子が、不思議なおじさん・高山と出会う。道に広がっていた土を踏まないように、おじさんは殊子をお姫様抱っこで抱えあげる。 そんなどきっとする出会いだったからだろうか。おじさんと出会ってからというもの、殊子は彼と一緒にいる妄想ばかりを繰り広げてしまうのだった。 もっと彼に近づきたい殊子が名前を尋ねると、一瞬悲しそうな顔をするおじさん。実は高山というのは仮名で、彼は記憶喪失者だった。 気にしすぎな殊子と記憶喪失の高山。ふたりの恋模様を中心に物語は進んでいく。焦らずじっくりと恋心がはぐくまれていく様は、初々しくもじれったくもある。 本作は1巻完結。しかしながら、ハラハラする展開や心温まる瞬間がしっかりと盛り込まれ、1巻だけとは思えないほどの満足度だ。主人公のふたりはもちろん、脇を固めるキャラクターたちも個性豊か。 記憶喪失や年の差、クセの強いキャラクターなど、濃い設定が盛りだくさんにもかかわらず心地よく読み進められるのはなぜなのか。それは巧みなストーリーテリングによって、本作が単なるラブコメディ以上の深みを持つ作品となっているからだろう。 父親が病気のせいで自分を忘れてしまった過去から、大切な人から忘れられることの辛さを痛いほど知っている殊子。しかし「全部忘れてしまうことはない」という祖母の言葉を証明するかのような描写が随所にちりばめられ、ラストにはこれらの伏線がみごとに回収される。心地よい読後感に、思わずもう一度読み返したくなるはずだ。 じれったくもかわいらしい大人のラブストーリーを、ぜひご賞味いただきたい。 文=ネゴト / Ato Hiromi