かつては“やらせ”が問題に…「新プロジェクトX」の初回放送で気になった演出
「チコジェクトX」の方が面白い!?
番組作りの参考になりそうなのが、まさにNHKの人気情報バラエティー番組「チコちゃんに叱られる!」だ。番組内で時々「プロジェクトX」のパロディ番組「チコジェクトX~挑戦者たち~」が放送される。本家同様中島みゆきの「地上の星」が流れ、語りも田口トモロヲが担当する。この番組が、ユーモラスたっぷりで評判がいい。もしかするとZ世代には「プロジェクトX」よりも「チコジェクトX」のほうが馴染み深いかもしれない。 「ドラマ」と「ドキュメンタリー」の中間に位置するものに、実話を基に俳優が演じる「再現ドラマ」がある。これを多用しているのが「チコジェクトX」だ。たとえば過去の放送回では、オセロゲームの開発秘話を扱い、開発者の親族の証言と再現ドラマを交えていた。 これこそが「新プロジェクトX」とは決定的に違う点だ。「チコジェクトX」は再現ドラマでも躊躇しない。本家「プロジェクトX」の大仰さをパロディにして笑いを誘う。視聴する側をリラックスして楽しませようというサービス精神にあふれている。 一般的にNHKの制作者たちは「ドキュメンタリー」であることにこだわりすぎ、「再現」というテロップを使わないことを重視しすぎているように感じる。制作者としてドキュメンタリーに「再現」の映像や、断り書きのテロップを入れたくない心情は筆者も理解できる。だがSNS全盛の今、こうした描写にはますます誠実さが求められる時代だ。一歩間違えれば、とたんに「不適切」とか「やらせ」などの批判を招きかねない。
「再現」を嫌いすぎる
2007年にNHKで放送された「事件の涙」というドキュメンタリー番組を思い出す。闇サイトで集まった男たちに娘を惨殺された母親の取材で、娘の思い出がつまった自宅での撮影を拒否され、NHKは自宅の替わりにウィークリーマンションのような場所に「再現セット」を作って撮影した。「再現セット」である事実を隠して放送した。 同じ母親を取材していた民放のドキュメンタリー制作者の指摘でそれが明らかになり、再放送では「自宅ではない」とNHKはテロップでお断りを入れることになった。問題提起した民放制作者は「NHKがこれまでの番組でも繰り返してきた常套手段なのではないか」と著書で疑問を呈している。 ドキュメンタリーの本家本元という意識が強すぎるせいか、NHKにはときおり「過剰な演出」と思える描写が目につくことがある。久しぶりの本格的なドキュメンタリー番組「新プロジェクトX」はそんなところでつまずかないでほしい。 *** 記事「『ふてほど』の後ではキツい…NHK『新プロジェクトX』の昭和的すぎる“美談”」では、番組内の時代錯誤な要素を水島氏が指摘している。