最高級の「浄法寺漆」 15年かけて成長した木、採取できるのは牛乳瓶1本分だけ
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】最高級の「浄法寺漆」 「漆かき」に同行したら…
透明度が高く、薄く塗ってもムラになりにくい
世界的にも有名な「浄法寺漆」の品評会が、産地の岩手県二戸市で開かれた。 漆かき職人ら35人が自慢の漆65点を出品し、漆の色や粘度、全体的な印象などを競い合う。 浄法寺の漆は透明度が高く、薄く塗ってもムラになりにくいのが特徴だ。 金賞を受賞した男谷萌子さん(32)は「地域の方々が大切に育ててくれた木のおかげで、良い漆を採ることができました」と少しはにかみながら笑った。
樹液を回収する「漆かき」職人
別の日、岩手県浄法寺漆生産組合の「漆かき」の作業に同行させてもらった。 林の中に分け入り、漆の木の幹に傷をつけ、樹液を回収して回る。 漆かき職人の千葉裕貴さん(38)は、木々の間で黙々と手を動かす。 「自分にとって満足のいく漆が採れたときには、やはりうれしいですね」 北海道出身。 木工関係の仕事をしていたが、2017年に漆かき職人を志して市の地域おこし協力隊員となり、2020年に職人として独立した。 「漆かきを学んだ後、いつかは自分で作った物にこの漆を塗って売っていけたらいいなと」
国宝や重要文化財の修理にも
漆の採取は6月中旬から始め、11月ごろまで続く。 15年ほどかけて成長した木から採れる漆の量は約200ミリリットル。 牛乳瓶1本分ほどの貴重なものだ。 採取が終わった木はその年に伐採する。 国内で使用される漆のうち、国内産は約6%。 その約7割を浄法寺漆が占め、最高級品として全国の国宝や重要文化財の修理に使用される。 浄法寺漆が塗られ、磨かれた器は、値段が高いが「一生もの」だ。 二戸市の担当者は「漆産業は市が誇る産業の一つ。漆かき職人や塗師などの人材育成を含め、漆文化の素晴らしさを多くの人に伝えていきたい」と話す。 (2022年10月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>