ロシア経済好調の裏に軍需産業 欧州全域で「戦時経済」が進めば、誰も求めていない「軍事衝突」が起こりうる
懸念される「安全保障のジレンマ」
ウクライナ情勢がここに来てにわかにきな臭くなっているのも気がかりだ。 戦況の悪化を受けて西側諸国の間では、自国が供与した武器でウクライナ軍がロシア領内の軍事施設を攻撃することを容認する動きが広がっている。 これに対し、ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長は5月31日「ウクライナとNATO同盟国は破壊的な力を受ける」と戦術核兵器の使用をほのめかしている。 国際政治学には「安全保障のジレンマ」という概念がある。軍備増強など自国の安全を高めようと意図した国家の行動が、敵対する国家に類似の行動を誘発してしまい、双方が欲していないのにもかかわらず、結果的に軍事衝突につながってしまう現象のことだ。 欧州全域が、この概念が生まれた第1次世界大戦時に逆戻りしてしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。世界で最も安全とされてきた欧州の地政学リスクがこれ以上高まらないことを祈るばかりだ。
藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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