『君たちはどう生きるか』、ジブリの鈴木敏夫Pが語る宮崎駿監督が復帰した理由
宮崎駿監督のそばで、数十年にわたりプロデューサーとして活躍してきた鈴木敏夫氏。スタジオジブリの代表取締役でもある鈴木氏が、米『ハリウッド・リポーター』の取材に応じ、宮崎監督が復帰に至った経緯や、最新作『君たちはどう生きるか』について語った。 『君たちはどう生きるか』は北米興収4500万ドルを記録し、今年のアカデミー賞でノミネートされるなど数々の称賛を受けている。 鈴木氏は2016年、現在83歳の宮崎監督から「また映画を作りたい」という驚きの連絡を受けた。その時の心境について、鈴木氏は「引退宣言から3年しか経っていなかったので、僕は『もう一緒に映画を作ることはない』と率直に思っていました」と明かした。 数か月後、『君たちはどう生きるか』の20分ほどのストーリーボードを受け取った鈴木氏は、どのように答えるべきか1週間熟考した。 「宮さんがこの映画を本当に作りたがっているのは分かっていたので、僕はゴーサインを出すかどうか決断する必要がありました。やがてストーリーボードをようやく読み終えると、それが凄く面白くて、心を掴まれるものだったのです」 「宮さんのビジョンは非常に明確で、彼には自分の人生の物語を伝えるという意思がありました。僕は『この作品は、途轍もなく厭世的なものになる』と感じましたね」 次の日の朝、鈴木氏は宮崎監督と対面するため、スタジオへと向かった。監督が公に引退を宣言していたこともあり、「プロジェクトに“ノー”を出そうと決断していた」という。 「スタジオに着くと、宮さんはいつもと違った様子でした。僕のためにドアを開けてくれたり、『コーヒーはいかがですか』と尋ねてきたり。いかに彼がこのプロジェクトに取り組みたいかが伝わってきて、反対の感情は一気に吹っ飛びました。そして、まさにその瞬間、『このプロジェクトを進めよう』と決断しました」 鈴木氏によると、宮崎監督は非常に内省的で、陰鬱な少年時代を過ごしていた。また、少年時代に病を患っていた母親が、監督の人生にとって非常に重要な存在だったという。 「物語は基本的に内省的なものです。しかし、宮さんはバランスを取るのが凄く巧い。なので、物語がダークになり過ぎると、明るさやポジティブな要素を作品に取り入れます」 また、本作で描かれる“下の世界”については、「僕らが生きる現実世界は、良いことばかりではありません。それでも、この世界を生きることには意味があって、生きることでもたらされる価値があるのです」と見解を示した。 「あの時に“ノー”と言わなくて良かった。この作品が実現しなかったら、宮さんは幸せなまま生涯を閉じることができなかったでしょう」 「(監督がまた映画を作るかは)全く分かりません。彼がもう1作やりたいと言ったら、僕は全面的にサポートします」