國學院久我山の指揮官も「完敗」と認める早稲田実業の堅守は何が凄いのか?森泉監督が試合前に選手へ発した熱い言葉の妙
「選手たちは一生懸命に頑張ったけど、望んだ結果は得られなかった。ゲーム内容は完敗。相手が強かったです」 【フォトギャラリー】國學院久我山 vs 早稲田実業 早稲田実業に0-2で敗れた試合後、國學院久我山の李済華監督は悔しそうに口を開いた。ボール保持率とシュート本数で相手より上回りながらも、確かに「完敗」と認めたのも頷けるゲーム内容だった。 では早稲田実業は何が凄かったのか。第102回全国高校サッカー選手権東京予選Aブロック覇者が誇る最大の武器は堅守だ。 11月11日に行われた國學院久我山との決勝戦、早稲田実業は5-3-2のフォーメーションを採用し、キックオフ時の立ち位置から自陣深いエリアに守備ブロックをセット。相手は前年度の東京Aブロック優勝校、全国大会でも3回戦まで勝ち進んだチームなので、格上との一戦ではよく見る対策ではあるが、単にリトリートするだけの堅守ではないのは開始早々の攻撃シーンで分かった。 速攻からFW9久米遥太(3年)が右サイドを抜け出して起点を作った瞬間、周囲の選手も一気に連動してサポート。そこからクロスを上げて一度は相手DFに跳ね返されたが、セカンドボールを拾ったMF6岩間一希(3年)からFW8竹内太志(1年)へとつなぐ。最後はFW竹内が先制ゴールを決めた。 この攻撃シーンで見せた連動は、守備でも素晴らしかった。パスサッカーを武器とする國學院久我山の自慢のアタックに対し、早稲田実業はボールホルダーに素早くチェイシング。相手にドリブルで剝がされれば、すかさずカバーリングが入り、横に揺さぶられてもスピーディなスライドで最終ラインに穴を開けない。 まるで11人が線でつながっているようだった。何か綿密なトレーニングをしているのかと思ったが、早稲田実業の森泉武信監督は「練習は例年通りの内容です」と言う。ならばなぜ無失点で悲願の全国初出場を決められたのか。指揮官は守備が機能した要因を謙遜しながら語った。 「結果的に無失点だったところもありますが、守備から入るのは1回戦からやってきました。T2リーグ(東京都2部)でも、こちらが優勢になるレベルの相手と対戦できていなかったので、そこが、どんな相手でも守備から入るとできた要因かなと思います」 だとしても、高円宮杯プリンスリーグ関東2部に所属する國學院久我山を完封した早稲田実業の守備は見事だった。だから森泉監督に続けて質問してみた。「それでも、あれだけの堅守を構築できたのは、選手たちが守備に対して楽しさや誇りを感じたからではないでしょうか?」と聞くと、謙虚な指揮官の口角がわずかに上がった。 「今日は『早実のディフェンシブなサッカーを見せることを楽しみなさい。早実の愚直なサッカーを表現することを楽しもう』と送り出しました。昨日から言っていたので、彼らも肩の荷が下りてプレーできたのかなと思います」 言葉の妙である。「美しく勝て」の横断幕を掲げる國學院久我山のサッカーも確かに魅力的だったが、早稲田実業が見せた綺麗に連動する守備も違った美しさがあった。「機能美」というワードがピタリと当てはまる堅守。構築の背景としては指揮官のメッセージも大きかっただろう。だから全国行きの切符を手にした選手たちが胸を張ってロッカールームに引き上げる時、充実感に満ちた表情だったのが目に焼き付いている。 (文=志水麗鑑)