日本人に成りすまし30年以上 アジア系ロシア人のスパイ疑惑浮上 警視庁150年 104/150
平成9年、アジア系ロシア人の男が、昭和40年ごろに失踪した福島県の男性の身分を乗っ取って成りすます「背(はい)乗り」で30年以上にわたり諜報活動を続けていた疑いが浮上する。男はロシアのSVR(対外情報局、旧KGB)に所属していたとされる。 男は男性の名前で翌41年に東京都内の貿易会社に就職。海外出張と称して国内外を行き来し、政治、経済、軍事の情報を集めたとみられる。事情を知らない日本人女性と結婚するなど、表向きは日本人商社マンとしての人生を送っていた。 警視庁公安部は平成9年7月、男が住んでいた東京都練馬区のマンションを捜索。驚くべきスパイ活動の一端が判明した。男は自宅で高性能短波ラジオでモールス信号を受信し、文章に置き換えて指示を受けていたほか、窓や机の引き出しに髪の毛などを置き、髪の毛が切れたり落ちたりしていれば、不在の間に開けられたことが分かる仕組みになっていた。 神社仏閣や墓地など、環境が変わりにくい場所にマイクロフィルムを隠し、それを機関が回収する「デッド・ドロップ・コンタクト」と呼ばれる方法で情報を渡し、一度使った場所は二度と使わないという念の入れようだったという。 公安部は偽のパスポートで出入国したとして男を国際手配したが、男は中国・北京に出国したまま日本に戻らず、公安部は20年、旅券法違反などの容疑で、氏名不詳のまま男を書類送検した。(橋本昌宗)