『ガリレオ』『新参者』『マスカレード・ホテル』 東野圭吾作品の映像化、なぜ人気?
『ある閉ざされた雪の山荘で』など過去作の映像化も続く東野圭吾
ある作家がブランド化する時、特定のシリーズや、特定のパターンに人気が集中する例は多いが、映像化された東野の作品群をみると、特定の傾向に収まっていない。それだけ様々なタイプの小説を書いてきたわけだ。 先に、東野の名が一般的に広く知られるようになったのは、『ガリレオ』シリーズと加賀恭一郎シリーズのヒット以降だろうと記したが、それより前にミステリファンの間で認知されたのは、『名探偵の掟』(1996年)が、『このミステリーがすごい!』のランキングで3位になってからであり、1998年刊行の『秘密』が転機だったといわれる。だが、東野自身がしばしば語ってきた通り、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビューした東野は、1990年代半ばまで、本があまり売れない状態が続いたのだった。 しかし、今年公開された『ある閉ざされた雪の山荘で』は、その売れない時代に発表されたものである。爆薬を積んだ特殊ヘリコプターを原子力発電所の上空に飛ばしてテロリストが脅迫する『天空の蜂』(1995年)もブレイク前に書かれており、この自信作が評判にならなかったため、ペンネームを変えることまで考えたという。だが、同作は、20年後の2015年になって映画化されたのだ。 ブランドとなった東野圭吾作品を映像化したいと考える時、定番シリーズの新作を待つだけでなく、過去の作品リストをみれば様々なタイプの魅力的な物語が、すでに書かれている。東野作品が頻繁に映像化されてきたのは、そういうことなのだろう。新作が注目されるだけでなく、旧作にもスポットが当たる。人気が人気を呼ぶ。人気作家とは、そういうものである。
円堂都司昭