宮藤官九郎が「季節のない街」シナリオ本発売記念イベントで池松壮亮とマル秘トーク「不適切どころではない人たちがたくさん出てきます」(池松)
ドラマ「季節のない街」(毎週金曜夜0:42-1:13、テレ東系※最終回の6月7日は5分拡大/ディズニープラスにて配信中)のシナリオブック発売記念イベントが4月13日に紀伊國屋書店新宿本店で行われ、脚本を執筆した宮藤官九郎が登壇。サプライズゲストとして同作に主演する池松壮亮も登場し、トークショーが行われた。その様子をリポートする。 作り込まれた「街」のセット ■池松壮亮へのオファーの理由は「声が素敵」 「季節のない街」は、山本周五郎の同名小説が原作。1970年に黒澤明監督が自身初のカラー作品「どですかでん」として映画化もしている。20代のころ両作品にふれた宮藤は「自分も何か作らなきゃ」と感じ、松尾スズキ主宰の大人計画に加入したという思い入れの強い作品。「30年ぐらいは飲み屋で『今やるならこの役はこの人』なんて妄想キャスティングをしていたんですが、2020年にコロナ禍になって、やり残したことを考えた時に、あぁこれだって」と企画に至った経緯を語った。 ドラマ版では、戦後のバラックが舞台だった物語を現代に移すにあたり、“ナニ”の被害に遭った土地の仮設住宅という設定に変更。昨冬、茨城県行方市の廃校に「街」のセットを建てて撮影した。 物語の語り部的存在の主人公・半助役を、宮藤作品には初参加となる池松にオファーした理由については、「映画版には登場しない、街の人々を傍観する役。元々フリーライターで、毎週、街で見た光景を報告書として提出するという体裁で、案内人として、視聴者に街の人々を紹介する役割でもあります。池松くんは声が素敵なので、ナレーションもやって欲しかった」と明かした。 池松は、「宮藤さんがもっともやりたかったことのひとつで、脚本だけでなく監督もされるというこの機会に、宮藤作品に初めて参加できることがとても光栄でした」と快諾。その報を受けた宮藤は「だまされてるんじゃないかと思って、(出演OKは)本当ですか?って何度も聞き返しました」と語り、会場は笑いに包まれた。 「半助は重たい過去を抱えている役です。コメディーのなかで震災を扱うのは難しいですけど、仮設住宅にも笑い声が響くこともありますし、そういう作品があっても良いのではないかと。さすが池松くんは間合いとニュアンスが絶妙で、いい具合に力が抜けていて、物語全体をコメディーに転換できた」と宮藤が絶賛すれば、池松も「不適切どころでは済まない人たちが次々に出てきますからね」と、本作の放送が始まる直前に終了し大評判を呼んだ宮藤の脚本作「不適切にもほどがある!」(TBS系)にかけて笑いを誘いながら「倫理観の及ばない根源的な人間の営みを描くこの物語に、宮藤さんがどう踏み込むのか、ものすごく興味深かった。半助という役は宮藤さんの分身と捉えていて、モニター前で考えている宮藤さんを観察することでチューニングしていった」と応え、作品への深い洞察力をにじませた。 ■仲野太賀のアドリブに悔しがる宮藤官九郎 また池松が宮藤の演出ぶりを「あまりに早く的確」と表現すると、宮藤は「(ロケ地が)寒かったから」と照れながらも、「早く撮っちゃわないと面白くなくなっちゃう」と持論をのぞかせた。 原作と大幅に変更した物語のゆくえについて、池松は「センチメンタルではなくそこでたくましく生きる人々を描くラディカルさが宮藤さんらしく、素晴らしいなと思いました」とし、宮藤は「あのプレハブの仮設住宅はもう存在しないけど、映像には残っている。それがすごいと思う。やってよかったなって思います」としみじみ語った。 発売中のシナリオ本「季節のない街 シナリオ」では、セット全体の見取り図や、各話監督の解説も収載。宮藤は「7話で池松くんが試着室から出てきた時に(仲野)太賀くんが言うアドリブが面白すぎて悔しくて、俺が考えたことにしてシナリオ本に書き入れようかと思いました」と語ったが、アドリブはもちろん未収載。シナリオ本と放送を見比べれば、俳優の「アドリブ力」発見にも役立ちそうだ。 取材・文=magbug