「たった3話も…」NHK朝ドラ『ブギウギ』香川編 趣里の”圧巻”演技に込められた「深い闇」
趣里がヒロインを務める朝ドラ『ブギウギ』(NHK)。第5週では、ヒロイン・スズ子の産みの母の存在が明らかになり、趣里の圧巻の演技に大きな注目が集まっている。 【圧倒的!…写真あり】蒼井優が松田龍平と商店街に降臨…!ママになっても変わらぬ「女優オーラ」衝撃写真 今回の朝ドラは、『東京ブギウギ』や『買物ブギー』など数々の名曲を歌った戦後の大スター、“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子がヒロイン・福来スズ子(趣里)のモデル。歌や踊りと持ち前の明るさで、傷ついた日本を明るく照らすヒューマンストーリーである。 第5週では、法事に出席するために両親の故郷である香川に帰郷。そこでスズ子は、地元の大地主・治郎丸家の亡くなった菊三郎と女中・キヌ(中越典子)との間に生まれた子であることが明かされる。スズ子はまわりの反対を振り切り、キヌの嫁ぎ先の隣村の農家へ向かう。 ショックのあまり木立の中、雄叫びを上げながら突っ走るスズ子。その姿を観て、“服を脱ぎ捨てながら商店街を走る”趣里の名場面が、鮮明によみがえった。 その映画こそ、趣里の名前を一躍この世に知らしめた『生きてるだけで、愛』(‘18年)である。 この作品で、趣里が演じたのは躁鬱病を抱え、過眠に悩まされる引きこもりの寧子。自分で上手に感情をコントロールできず、同棲する津奈木(菅田将暉)に当たり散らすエキセントリックで面倒臭い役どころ。客観的に自分のことをわかっていながら変えられない。頑張ろうともがき苦しむ寧子の姿を、当時 「他人事には思えなかった」 と趣里は話す。
「趣里は15歳でイギリスのバレエ学校に留学するも、度重なるケガで挫折。この役を演じるにあたって、夢敗れ失意のどん底にあったみずからの経験を、監督に赤裸々に告白。 思い出したくない苦しかった過去と向き合い、役作りを行いました。感情を爆発させながら商店街を走るあの名場面にも、そのときの経験が込められています」(制作会社プロデューサー) 全裸になり、清々しい涙を流す。趣里の神々しいばかりの姿が、今も目に焼き付いて離れない。その姿が、木立の中を一心不乱に走る『ブギウギ』のシーンと重なって見えたのは、私だけではあるまい。しかし彼女の演技は、ここからさらにギアを上げる。 「一夜を明かしてキヌの元を訪ね、子守唄を聞き、生みの親であることを確信するスズ子。父の形見である懐中時計を握りしめ帰る道すがら、子供たちに混じって水遊びに興じ、やがて力尽きて川の中に横たわる。このシーンこそ『生きてるだけで、愛』を超える名場面となりました」(前出・プロデューサー) 川の中に大の字になって目を閉じるスズ子。その姿をカメラは俯瞰で捉えながら、 「胸が、お腹が、身体中が、熱うて張り裂けそうやった」 と呟くスズ子。 真実を知り、自分を見失ったスズ子の深い悲しみが描かれたこの場面を観て、改めて、 「悲しい時に人間っていうのは、悲しい顔をするものじゃないよ。 人間の感情ってのは、そんな単純なものじゃないんだよ」 という金言が蘇った。 これは名匠・小津安二郎監督が、遺作となった映画『秋刀魚の味』でヒロインに抜擢した若き日の女優・岩下志麻に授けた言葉。この金言を胸に、岩下は女優として頂点に上り詰めた。 ひるがえって趣里もまた、スズ子の深い悲しみを見事に表現して魅せたのである。 たった3話で終わってしまった香川編。だがこの3話に込めた制作スタッフの思いは深い。 なぜなら戦中・戦後の混乱期を乗り越え、大スターとして輝く福来スズ子を描くためには、心の奥底に秘めた闇こそマグマ。闇が深ければ深いほどスターは、燦然と輝くのだから。 第6週から「東京編」がスタートした。趣里演じるスズ子の“心ズキズキ ワクワク”する展開に期待したい――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中
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