【バブルの証言】「架空の丸紅部長」に変身した元白バイ隊員…リーマン・ブラザーズはこうして騙された【話題作「リーマンの牢獄」を先行公開】
---------- 2008年9月、アメリカでサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)が崩壊し、大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した。世界金融危機「リーマン・ショック」の直前、リーマン・ブラザーズから総額371億円にのぼる莫大なカネを騙し取った凄腕詐欺師(懲役15年)がいる。このほど「リーマン・ショックの引き金を引いた男」の回顧録『リーマンの牢獄』が出版される。2024年最注目の巨弾ノンフィクションに、知られざる現代史の裏側が赤裸々に記録される。(文中敬称略) ---------- 【写真】批判は覚悟している…リーマンから371億円を騙し取り、懲役15年
丸紅部長に成りすました元白バイ隊員
チーム齋藤栄功(しげのり)の作戦は見事に成功し、2007年10月30日に第1弾の98億円がリーマン・ブラザーズから振り込まれる。11月5日には第2弾の43億円を、架空の病院再生事業への投資名目でリーマンから巻き上げた。 そして2007年11月8日、齋藤は一世一代の大芝居を打つ。リーマンからさらにカネを引き出すため、丸紅部長の替え玉を登場させてリーマンの担当者に引き合わせたのだ(※なお『リーマンの牢獄』はQ&A形式で構成されており、別人格のアバターが齋藤にインタビューする形式で綴られている)。 〈――舞台が本物の丸紅本社で、なりすましですか。 「本物の佐藤浩一部長と鉢合わせしないよう、不在の時間帯に引き合わせることにし、丸紅本社内の部屋を手配させるなど、いろいろ工作をした。偽部長は白バイ警官が演じました」 ――えっ、まさか現役じゃないでしょう? 「福岡県警交通課にいた元警官です。白バイに乗っていたので、親しみを込めて〈白バイさん〉と呼んでました。報酬なしですから、カネ目当てで引き受けてもらったわけではありません。ふだんは、アスクレピオスの主力事業となっていた病院のファクタリング先を発掘してくれていた人です」〉(『リーマンの牢獄』254~255ページ) 替え玉になってもらうため、齋藤は元白バイ隊員を大阪ミナミの居酒屋に連れ出して接待する。酒席はおおいに盛り上がり、スナックへ2次会に繰り出した。 〈「白バイさんとは意気投合しました。あの大阪ミナミの夜の延長線上で、よっしゃ、わかった、やったるわ、齋藤さんも色々大変やな~、そんな感じです」 (略) 「下手にプレゼンなどして、印象を良くしようとするのが今どきの投資銀行流ですが、僕は反対でした。〈プレゼンは負け〉と山一證券時代に叩きこまれたからです。だって負けるシナリオがあるからこそプレゼンするんでしょう? 強気で通せ、というのが昭和の証券界の教えでした。 そこで考えたのが〈ニセの佐藤部長〉という苦肉の替え玉作戦でした。出資の第1弾、第2弾はすでに入金済みですから、今さら引き返せません。佐藤部長本人をかつぎだしたら、たちまち丸紅首脳陣に露見してしまいますからね」〉(『リーマンの牢獄』255~256ページ)