『虎に翼』称賛される理由は“未来”への眼差し 『おかえりモネ』菅波に重なる寅子の“いま”
朝ドラが未来へ目を向ける視点が顕著になったのは『おかえりモネ』
『カムカム』『舞いあがれ!』『虎に翼』と未来志向の朝ドラが続く中、未来へ目を向ける視点が顕著になったのは『おかえりモネ』(2021年度前期)である。戦争に代わる日本人の大きな共通喪失体験である、2011年の東日本大震災から10年後、いまだ解決していない問題に当事者でない者がどうコミットするかに真剣に取り組んでいたドラマでは、ヒロイン・百音(清原果耶)が、天候を事前に察知し、できるかぎりの対応をする仕事(気象予報)に就くことであった。 ヒロインのパートナー・菅波(坂口健太郎)は「未来に対して僕らは無力です。でもだから、せめて今、目の前にいるその人を最大限、大事にするほかに恐怖に立ち向かうすべはない」と語る。菅波の言うとおり、未来を完璧に予想することはいまのところ不可能だ。でも、ささやかな行動が未来のなにかを変えることはある。 『虎に翼』もまた、未来のためにいま努力することが描かれている。穂高(小林薫)は「雨だれ石を穿つ」と言い、長期的目線をもっているが、寅子はそれに反論している。彼女はいまを大事にしていて、それはおそらく「誰一人取り残さない社会」と並び「もっとも取り残された人には最初に手を差し出す」に脚本が目配りしているからであろう。未来を見る前に、「いま、目の前で助けを求めている人を助けないでどうする?」というようなことだ。 第60話で寅子は「私たち『現実はこうだ』って突きつけられて諦める苦しさをたくさん味わってきたじゃない。生ぬるい理想でも、いまできる一番を探したい」と「いま」とよねに語り、この大事にするところは菅波と同じである。 飛び石のようにひとつひとつ問題をクリアーしていくことで向こう岸という未来につながっていく。それははるの夢(10年後、寅子が出世して収入がなかなかのものになっている)であり、米津玄師の主題歌「さよーならまたいつか!」の「100年先」というワードにもつながっている。 戦後の日本国憲法によって男女平等がとりあえずかなった(ドラマの時代では)ところで、こんどは戦争で親を亡くした子供たちのために、いまできる最適解を求め、寅子は前を向いていく。だが、第60話のおわりに、震災孤児の問題はこのあと20年続くとナレーション(尾野真千子)されるし、女性の問題も令和のいまになっても進展はしているものの、理想には未だ届いていない。だからこそ、はるの計画帳のようにただただ良くなるビジョンが大事だなあと思うのだ。
木俣冬