のん「あれはワクワクしました」文豪たちが愛した昭和レトロなホテルで語る新作映画の撮影裏話
俳優を軸に様々なステージで活動を続けるのん。「表現者」としての多岐における活躍ぶりが認められ、先日「第16回伊丹十三賞」を史上最年少で受賞して話題を集めた。のんさんにとってのCHANGEとは?――。【第1回/全3回】 ■【画像】のんが主演映画『私にふさわしいホテル』で魅せた迫力の演技 川端康成、三島由紀夫、池波正太郎といった名だたる文豪たちに愛された「山の上ホテル」。ここは、のんさんが主演する映画『私にふさわしいホテル』の舞台だ。監督は『ケイゾク』、『TRICK』、『SPEC』シリーズなどを手掛けた堤幸彦。野心溢れる“文学史上最も不遇な新人作家”中島加代子(のん)と文壇の大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一)が権威ある文学賞「鮫島賞」を巡って繰り広げる攻防をコミカルに描く。 のんさんが演じた主人公・加代子とはどのような人物なのか。 「破天荒です(笑)。すごくバイタリティに溢れたエネルギッシュな人だと思います。そして、文学賞を取るためなら手段を選ばない、悪い奴だとも思うんです。でも、自分が書いた小説を読んで欲しいとか、小説が好きだという気持ちだけはすごく純粋で淀みがない。小説を書いたり、何かを創造するというのは孤独な職業だと思いますし、一人だけですごく頑張っている感じはします。自分の“好き”に対しての純粋さ、目的の為なら手段を選ばず何でもやっちゃう“人でなし” なところは少し私に似ているかもしれませんね」 インタビューは映画の舞台「山の上ホテル」で行なわれた。瀟洒なインテリアが美しく、昭和レトロ感溢れるその内観は、令和の時代からみると異世界のようにも感じてしまう。そんなロケーションに合ったドレッシーな衣装に身を包み、のんさんは淡々と、そして丁寧に話す。
監督から相当なムチャぶりも
映画の後半では天敵ともいえる東十条と”ある目的“のために共同戦線を張ることになる。 「加代子の行動原理って好き嫌いではないんです。人に対しては垣根が無いといいますか、好きという気持ちには他のモノが関与していない。権力もしがらみも人の気持ちもなにも関与していないと思いますし、むしろ煩わしいんじゃないかとも思えるんです。だから、東十条先生に権威で抑えられても、先生が書いたモノに対しての尊敬は消えていないんですよ」 堤監督といえば、独特のユーモアと映像センスでファンを魅了し、これまでにも自身が手掛けた多くの作品で俳優にヘンな(ぶっ飛んだ)ことをさせてきた。今回もまたしかり。 「加代子が机の上に倒れ込む……というシーン。台本には「倒れ込む」とか「崩れ込む」って書いてあったんです。いざ撮影が始まったら、思いっ切りベタって感じで……。私は”堤節”って呼んでいるんですけど相当なムチャぶりでした(笑)。でも『TRICK』や『SPEC』、監督が撮られているドラマには登場しそうだなって思ったので納得できました。監督には“てこの原理で倒れて下さい”って指示されたんですけど、あんな動きになるとは夢にも思っていなくて。実際に綺麗に倒れて見せるのは難しくて、待ち時間にかなり練習しました」 テーブルクロス引きのシーンにも挑戦した。かつて“Mr.かくし芸”とも呼ばれた堺正章が『新春かくし芸大会』(フジテレビ系)で披露していたお得意の芸だ。 「あれは一朝一夕で出来ることじゃないんですが、実は綺麗に見せるための仕掛けがあるんですよ(笑)。仕掛けがあると言っても何回か撮りました。私もどういう所作なのか勉強しようと思って、堺正章さんのテーブルクロス芸を動画で調べたり、堺さんとえなりかずきさんがコラボでされているのを見たりして、違う方がやるとどうなるんだろうっていうのを勉強しました」 劇中の衣装にも注目だ。和装から洋装まで様々な服に身を包み、ファッショナブルなのんさんを存分に見せてくれるのだが、一番インパクトのあったのがトナカイのコスプレ! 「あれはワクワクしました。コスプレは初めてだったと思うんです。映画『さかなのこ』の時のハコフグは帽子だったし……(笑)。柚木麻子さんの原作小説にもそのくだりはあるんですけど、コスプレのディテールまでは書かれていませんでした。だから、衣装合わせの時に見せられた時はビックリして。これも堤節ですが、今は詳しくは言えないので劇場で確かめて欲しいところです(笑)」 のん 俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2016 年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞。2022 年2月に自身が脚本、監督、主演の映画作品「Ribbon」公開 (第 24 回上海国際映画祭 GALA 部門特別招待作品)。同年9月、主演映画『さかなのこ』で、 第 46 回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」、第32回日本映画プロフェッショナル大賞「主演女優賞」を受賞。Netflix シリーズ『ポケモンコンシェルジュ』では、主人公ハルの声を務める。音楽活動では、2023年 6月に、ASIAN KUNG-FU GENERATION・元 GO!GO!7188 のノマアキコ&ユウ・堀込泰行・柴田隆浩(忘れらんねえよ)・ヒグチアイ・ひぐちけい・高橋幸宏らとコラボし、自身の楽曲も複数収録した2nd フルアル バム『PURSUE』をリリース。2024 年、第16 回伊丹十三賞を受賞。 鈴木一俊
鈴木一俊