【チキンカツ玉子とじ】思いがけず本気の食事になってしまった、老舗酒場の絶品チキンカツ玉子とじ:パリッコ『今週のハマりメシ』第151回
しばし後、チキンカツ玉子とじも到着。鉄鍋に入ってぐつぐつと音をたて、問答無用にうまそうだ。 特徴的なのは玉子の仕上がりで、一般的なかつ煮と比べ、かなりなめらかそうに見える。玉子とじと言うよりは「ふわとろ玉子のチキンカツのせ」とでも呼びたいような。 まずは玉子だけを口に運ぶと、しっかりとだしが効き、ほんのりと甘めな味わいに関西の風を感じるような気がする。そこに揚げ油のほんのりとしたジャンク感が加わるのがたまらない。 続いてチキンカツ本体。ザクザクの衣の下に、ぷりぷりかつ柔らかい鶏肉。これをよく味わっていくと......ん? 「ケンタッキーフライドチキン」の「サイ」という部位に、少しだけ鶏レバーっぽい味を感じることがあるの、わかってくれる人がいるでしょう。あの味がする! 今調べてみたところ、サイは鶏の「腰肉」だそうで、偶然か、毎回そうなのかはわからないけど、このチキンカツは腰肉を使っているのかもしれない。 というようなこざかしいウンチクはいいとして、とにかくシンプルに、めちゃくちゃうまい! これは、白メシにのせたいやつだ......。よし、頼んでしまおう。「白飯」(200円)を。今日の食事は、ここで完結させてしまおう。 すぐにやってきたごはんが、つやつやで甘くて粒だっていて、完璧に美味しい。湯呑みの直径を広げたような器もその味を引き立てているような気がする。このタイプの茶碗、こんど探して買おう。 当然オン・ザ・ライスにする。たこ安における、オリジナルチキンカツ丼の誕生だ。甘辛い汁を吸い、徐々に柔らかくなってゆく衣。ふわとろの玉子。それらと融合する白米。これがうまくないわけがない。幸せすぎるな......。 と、心ゆくまで堪能してお会計をし、店を出ると、店主さんがわざわざ店の外まで見送りに来てくれた。驚いたのが「どうぞ」と案内されたエスカレーターが、下りに変わっていたこと。どうやらスイッチング方式で、上りと下りを入れ替えられるらしい。僕みたいなしみったれた客のために、そんな......。 店主さんは満面の笑みで「ありがとうございました!」と見送ってくれ、案の定、地上に着いて見上げると、まだにこやかに、こちらに手をふってくれているのだった。こんな別れをしてしまったら、もう完全に、たこ安のとりこになっちゃうって。 そういえばお会計時にお姉さんに聞いてみたところ、「関西即席 一品料理」の由来は、初代である先代店主が、関西で料理修行をしたことにあるのだそう。また飲みに行って、いろいろと歴史を聞いてみたいものだ。 取材・文・撮影/パリッコ
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