「小さっ!」人気ホラー作家・背筋の最新作はなぜこのサイズ? 担当編集&営業担当が明かす販売戦略
◼️常識外れ、背筋の異色の新刊が大ヒット中 『近畿地方のある場所について』が25万部を超えるなど近年のモキュメンタリーブームの担い手でもある人気ホラー作家・背筋。著者の新刊『口に関するアンケート』(ポプラ社/刊)が、SNSを中心に、ネットで話題になっている。そのタイトル通り、口元をデザインした表紙がインパクト抜群なのだが、注目は本のサイズである。 【画像】ヒット作『近畿地方のある場所について』コミカライズ版も好評 判型が115mm×85mmとかなり小さく、価格もわずか605円(本体550円)という安さだ。そんな異色の一冊が、発売から1ヶ月絶たずして、累計発行部数10万部を突破するなど、ベストセラーになっている。 そんな話題の今作だが、このサイズでの発売が実現するまでには、ポプラ社の担当社員の強い熱意があったのだという。今回、このサイズでの販売戦略を立案した、ポプラ社の編集担当者と営業担当にインタビュー。異色の本がなぜ世に出たのか、詳細をうかがった。 ■小さすぎるサイズと価格に込めた思い ――まずは、背筋さんとの関係の始まりからお話いただきたいです。 担当編集(以下、編集)::背筋さんに弊社のWEBサイト「WEB asta」に掲載させていただく短編をご依頼したところから、関係がスタートしました。いただいた原稿が非常に怖く、しかも面白いんです。最初は編集部全員で読ませていただいていたのですが、それが口コミで部署を越えて広まり、弊社社員たちの間でバズったんですよ。 ――それは凄いですね。 営業担当(以下、営業):これほど意外性のある怖さ、インパクトをもった作品はWEBより紙の書籍で刊行した方が、その面白さがより一層読者に伝わるのではないか? という話になり、これまでにない斬新な形式での刊行が決定しました。 ――大型書店の売れ筋ランキングの棚があり、そこで『口に関するアンケート』を見つけ、驚きました。文庫本と比較してもさらに小さいサイズで、かえって目を惹きました。他の著作もヒットしている背筋さんの本で、このサイズ、そして550円という価格に設定された、その狙いについて教えてください。 編集:短編でしたので、手軽に手に取ることができ、読み終えたあとに貸し借りなどもしやすいよう、コンパクトな形が本企画にマッチすると考えました。他にも、紙ならではの装幀の工夫や本文内にも仕掛けを施していますので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。 ――このサイズは見慣れないサイズですが、「文庫本」「新書」のような名称はあるのですか。過去にこのような事例は、他社でも例はありますか。 営業:便宜上、弊社では変形単行本と呼んでおりますが、一般的な名称は特にないと思われます。他社さんの書籍でもさまざまな版型のものがあると思いますが、弊社では児童書も刊行しておりますので、特に児童書棚では色々なサイズの書籍を見ることが多いです。 ――背筋さんにこのサイズをご提案された際に、どのような反応がありましたか? 編集:ありがたいことに、好評でした。「ユニークな企画ですね! 新たなチャレンジ、面白いと思います」とおっしゃっていただきましたよ。 ■口コミでSNSでも話題沸騰中 ――9月4日に発売され、1ヶ月を経たないうちに発行部数10万部を突破しています。 営業:近刊の単行本では類を見ないサイズにもかかわらず、ご案内当初から多くの書店様で期待値も高く、目を見張るような大きな数のご発注を多数いただきました。発売後、大きくご展開いただいているお店から爆発的に売れており、大展開している店舗が全国でさらに増殖中です。 ――書店や読者からの反響はいかがですか。 編集:SNSでは「小さいと話題の本」と既に口コミで広がっており、「こんなに小さいのにちゃんとすごく怖い」「気軽に手にとれてすぐ読める」「ポケットにすっぽり入る本なんて初めて」などのご感想が寄せられ、小さい本だからこその読書体験を楽しんでいただけているようです。 ――今後このようなシリーズを展開していく予定はありますか? 編集:現状は未定です。今後も紙、電子問わず、既存の書籍の形に囚われず、より多くの読者の方に届く形を考えながら新たなチャレンジをしてまいりたいと考えております。 電子書籍・オーディオブックなど、テクノロジーの発達により、文芸作品も様々な形態で発売されている昨今で、紙の本ならではのインパクトを生んでいる本書。ぜひ書店でそのサイズを確かめてほしい。
山内貴範