【西武投手王国への道】成長を後押しする外部専門家との連携「ゲームを控えてから、よく眠れるようになりました(笑)」(隅田知一郎)
血糖値を調べて睡眠の質を改善
昨今、今井のように外部のトレーナーやアナリストなど専門家に指導を受けて飛躍のきっかけをつかむ投手が少なくない。西武で言えば平良海馬は菊池雄星(ブルージェイズ)も師事する清水忍トレーナーやデータ解析のネクストベース社と契約してレベルアップにつなげている。 スマホで各種情報を得られる今、選手たちは少しでも良くなろうとさまざまなヒントを探し求めている。半面、選手が外部指導を受けることを嫌がる球団もあるが、西武のスタンスは異なる。球団のアイデアマンとして環境改善を進める市川徹企画室室長が説明する。 「基本的な考え方としてプロ野選手は業務委託者なので、球団から『これをやってはダメ』とNGを出すことは一切ないです。とはいえ球団として外部に出ていかれないように、スタッフ自身がいろんな引き出しを出すような活動をやっていかなければいけないといつも話しています」 10球団がキャンプインを翌日に控える今年1月31日、6日後に春季キャンプをスタートさせる西武は首脳陣と現場スタッフの約130人を埼玉県内のホテルに集めてトレーニング、投球、打撃、組織論などの勉強会を7時間半開催した。 指導者が最新理論を学ぶ機会を球団として設ける一方、各種外部機関と手を組み選手の成長を少しでも引き出そうとしている。その一つが、「血糖値でメンタルを読む」という研究をする東洋大の加治佐平特任准教授との取り組みだ。 「血糖値が食事で上下するのはイメージできると思いますが、数値の変動から睡眠の質やストレス、メンタル、アドレナリンも見えるんです」 具体的にはパッチを腕に2週間つけ、血糖値の変化から緊張や興奮を読み解く。例えば就寝時に神経が昂(たかぶ)っているか、試合本番でアドレナリンがどれらくらい出ているかなどが分かるという。 西武では22年、ファームで興味を持った約10人に実施。その中で有効に作用した一人が、当時ルーキーの隅田知一郎だった。 開幕先発ローテーション入りした隅田は初登板初勝利を飾るも、その後は打線の援護にも恵まれずに10戦7敗で登録抹消。二軍在籍時に血糖値を調べると夜中に上昇が見られた。 もしや、寝る前にアイスを食べているのではないか──。 加治佐特任准教授の推察をチームスタッフが確認すると、隅田は否定した。血糖値上昇の原因は人気ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』をしていたことだった。 「本人によると『スマブラは声が出ます』というくらい興奮する、と。血糖値は甘いものを食べても、興奮しても上がります。いずれにせよ、睡眠には良くない。当時の隅田投手は、ノンレム睡眠とレム睡眠の睡眠サイクルがきちんとしていませんでした」 就寝前の時間を良質な睡眠につなげるには、興奮するゲームより心が落ち着くもののほうがいい。加治佐特任准教授がそう勧めると、隅田は『ワンピース』を見るように変えて睡眠の質も改善されたという。 「普段からできるだけ寝られる時間は増やそうとしています。でも当時は自分の楽しみをしっかりつくるのもすごく大事なことだったので……。ゲームを控えてから、よく眠れるようになりました(笑)」
疲労の回復に睡眠が大切なことは誰もが知っているはずだが、その質を改善するために血糖値まで測る選手は希だろう。だからこそ球団で実施することに意味がある。 こうした取り組みも近年、西武投手陣の成長の背景に存在している。
週刊ベースボール