人気「オリオンビール」Tシャツ 若者ニーズ全部入り、その中身は
沖縄に一歩足を踏み入れれば、「オリオンビールTシャツ」を着て観光する若者を至る所で目にする。そのTシャツの売り上げは右肩上がりで伸びているという。企業ロゴを大胆にあしらった異色のTシャツが選ばれる理由は何か。背景を探ると、若者の“旅行マインド”の変化が見えてきた。 【関連画像】沖縄旅行で着る服として定番アイテム化し、ここ数年で自然発生的にヒット。缶ビールのロゴを大胆にあしらったシンプルなTシャツが一番人気で、他にも様々なバリエーションがある ※日経トレンディ2024年6月号より。詳しくは本誌参照 【オリオンビールTシャツ】 ●沖縄旅行の“制服”化したオリオンTシャツは若者の心を捉える要素が全部入り 新型コロナウイルス禍を経て、観光需要が復活した沖縄で、「オリオンビールTシャツ」(オリオンビール)を身に着けて街を闊歩(かっぽ)する若者が増えている。発売は2010年代と古くからある上、実はオリオンビールがプロモーションを強化してきたわけではない。しかし、特にここ1~2年、前年を大きく上回る売り上げを記録するようになったという。 オリオンTシャツは、実はレパートリーが豊富だ。缶ビールにもあしらわれているロゴが大きく載ったTシャツが一番人気。それ以外にも、フラダンスやネオンサインをモチーフにしたイラストのものに加え、「OLDENTIMES OKINAWA」など沖縄のブランドや、アウトドアブランド「CHUMS」とコラボしたTシャツなどもある。デザインのテイストも多種多様だ。 では、なぜ自然発生的に人気に火が付いたのか。実はこのオリオンTシャツは、若者のニーズの“全部入り”といっても過言ではない。オリオンビール マーケティング本部 ライセンス課 課長の新谷俊作氏は「SNS、特にTikTokの普及タイミングと売れた時期が重なるため、影響が大きいと感じる」と説明する。「ディズニーランドに行ったら、学生服で動画を撮る」のと同様のおそろいコーデ文化が根底にある。ロゴが大きく目立ち一目でオリオンTシャツだと分かるデザインが、沖縄旅行に行った際のSNS撮影用の“制服”として認定されたというわけだ。 オリオンTシャツが選ばれる理由はいくつか分析できる。もともと企業の好感度が高かったといい、「沖縄の酒といえばオリオンビール」のイメージが定着していたことは前提。加えて、まず気候が年間を通して温暖なことから、Tシャツを1枚買っておけば「おそろいコーデ」が通年で楽しめるため、経済的でもある。IKEAやNetflixのTシャツが人気を得るなど、企業Tシャツがファッションの一部として受け入れられやすくなっている影響も大きいという。 おそろいでありながらも個性を求める――。最近の若者が持つ特徴的な欲求を満たしたのが、ライセンス契約による他社発売のTシャツも含めた、豊富なラインアップだ。TikTokなどに投稿する動画を撮影する際、オリオンビールのロゴや文字で定番の沖縄感を出しつつ、どのTシャツを選ぶかで自分の個性を出せる。 また、カタカナで「オリオンビール」と書かれたプリントが「かわいい」と反響を得たり、オレンジやピンクなどのビビッドな色を打ち出したカラフルなTシャツが好評だったりする。新谷氏は、「定番の着方をするだけでなく、ちょっと外した着方でアレンジしたりと個性を出しながら楽しんでもらっている。狙っていない“発火点”が非常に多い」と言う。 実は、この「動画や写真を撮りたい」かつ「定番を押さえつつ、少しずらしたい」というニーズは、若者の沖縄旅行スタイルも変化させている。ビーチや国際通りなどの定番スポットは引き続き盛況だが、最近では住宅街にある喫茶店や、那覇から遠く離れた場所にある飲食店に、若者が訪れるようになっているという。それは、定番スポットだけではなく、自分がSNSなどで見つけたユニークな場所で、動画などを撮影したいため。「彼ら彼女らは、髪形のセットや化粧をしたての午前中にそうした“撮影スポット”を訪れ、午後に海などに行くケースが多いと聞く」(新谷氏) 現在では国際通りにある公式ストア「オリオンオフィシャルストア那覇」まで、お土産店やコンビニエンスストアでは販売していない種類のTシャツを買いに来る若者がいるほど、根強い支持層を広げている。 【ヒットメーカーはZ世代をこう見る】 オリオンビール マーケティング本部ライセンス課 課長 新谷俊作氏 個性的な映え動画撮影は“使命” 聖地巡礼と同じ感覚で旅行か 「自分ならではの映え動画を撮りたい」という若者の時間や手間のかけ方からは、SNSで発見した場所に自分も行きたいというだけではなく、ある種の使命感までうかがえる。おそらく映画やアニメの「聖地巡礼」と同じ感覚で、ミッションとして楽しんでいる側面もあるのではないか。オリオンTシャツもその一環として、「イベント消費」でヒットしている印象もある。そういう点では、「開放感がある」「非日常感がある」という印象を持たれやすい、ビール自体との相性の良さも感じる。
髙田 悠太郎