【レポート】野心的でありながら気高き正統派ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』
ミュージカルならではの“擬音”の表現にも驚きが
本ミュージカルを特徴付けているのが、物語を彩る音――音楽のみならず効果音含めた“音”である。音楽は『1789 -バスティーユの恋人たち-』『キングアーサー』などで知られる、フランスを代表するミュージカル作曲家であるドーヴ・アチア(共同作曲:ロッド・ジャノワ)。打ち込みなども多様した現代的サウンドを得意とする作曲家だが、加えて今回はラップが随所に盛り込まれ、本作ならではの味わいを生み出している。もちろんそれ以外にもジョースター卿が歌うミュージカルソングらしいビッグナンバー、ツェペリが歌うジャズテイストのナンバーと、聴きどころはたくさん。そして“ジョジョ”といえば……の、印象的な擬音の数々の処理が非常に面白い。「ズキュゥゥゥン」は、「メメタァ」は、こう表現するのか! という驚きは一見(一聴?)の価値がある。さらに戦闘の打撃音などもバンドが担当しているのも斬新だ。ミュージカルという芸術は音楽と芝居が密接に繋がっているものだが、ここまで音にこだわった作品も珍しいのではないだろうか。また、常に物語に音が寄り添っているからこそ、後半のクライマックスシーン、無音が作る緊張感も冴えわたった。 ステージングも諸所に面白いところがあり、中でも印象的だったのは1幕中ほど、冒頭から時間が7年ほど経過し混沌の時代になっていることを表現するシーン(楽曲名「揺れる時代~ラグビー」)。切り裂きジャック、ワンチェンの初登場シーンでもあるが、アンサンブルが織りなす動きが複雑でありながら非常にダイナミックで、演出家が振付も担当している作品ならではだ(演出・振付は長谷川寧)。ほかにもストップモーション、スローモーションなども駆使した動きは、ポージングに特徴のある“ジョジョ”の世界観ともマッチ、一方でジョースター邸が焼け落ちる名シーンはこれまた「こうくるか!」という演劇らしい表現方法。あらゆるシーンでこだわりを感じ、見ていて飽きることがない。 ……と、あまりに印象が強い原作であり、本ミュージカルはその細部も丁寧に立体化しているため、細かいこだわりポイントをどんどん語りたくなってしまうのだが、全体を俯瞰して見ると、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』は、インパクト勝負では決してなく、王道のグランドミュージカルなのだ。物語と音楽が有機的に絡み合っているし、何といっても“ジョジョ”とディオの成長と宿命という物語のうねりがしっかりある。登場人物たちがどう生きたか――どう困難に立ち向かい、運命を切り拓いていったか。人の生きざまを描いた、骨太の物語がぶれずに作品を貫く。それは脚本の元吉庸泰の手腕と、キャラクターに血肉を通わせた出演者たちの熱演ゆえだろう。一体どうなるのか原作ファンもミュージカルファンもざわつかせた〈帝劇ミュージカルדジョジョ”〉は、野心的でありながら気高き正統派ミュージカルであった。 取材・文:平野祥恵 <公演情報> ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』 <今後の公演予定> 【北海道公演】 2024年3月26日(火)~3月30日(土) 会場:札幌文化芸術劇場hitaru 【兵庫公演】 2024年4月9日(火)~4月14日(日) 会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール ※4月13日(土)17:00兵庫公演、14日(日)12:00兵庫大千穐楽公演のLIVE配信を予定。