UNISON SQUARE GARDEN結成20周年記念ライヴでみせた、〈君が好きなロックバンド〉であるための道のり
7月24日、UNISON SQUARE GARDENがバンド結成20周年を記念して日本武道館で〈UNISON SQUARE GARDEN 20th Anniversary LIVE "ROCK BAND is fun"〉を開催した。その日の模様をレポートする。
「君が好きなロックバンドは、君がずっと好きでいてくれたからここまでこれた」
それはとても美しい幕開けだった。いつものように、イズミカワソラの「絵の具」が会場に流れると、みんなの拍手がUNISON SQUARE GARDENの20周年を称えるように大きく鳴り響いた。まずは貫禄に満ちたシルエットで鈴木貴雄がステージに登場し、お次は腕を振りかぶるようなアクションで田淵智也が姿を見せる。そして最後に静かに歩いて中央まできた斎藤宏介が片手を大きく上げて、この夜の始まりを合図した。 2024年7月24日、彼らのバンド結成20周年を祝う日本武道館でのライヴ、その名も〈ROCK BAND is fun〉がスタートした。1曲目の「Catch up, latency」から、ごまかしの効かない3人きりのバンド・サウンドが武道館いっぱいに鳴らされ、この熱量と精度を20年もの間、高め続けてきた彼らの歩みを想う。 彼らが、ここ日本武道館で初めてワンマンライヴをしたのは2015年7月24日のことで、その意気込みとしては〈基本的にはいつも通りのライヴ〉であり、〈でもちょっとした遠足的なもの〉という彼ららしいストイックなものだった。ところが今回はオフィシャルサイトに〈“20年目のプロローグ”ちゃんと幸せになる準備もしてる。〉という言葉が掲げられ、田淵はブログで「一度しかないロックバンド人生で、ここだけを目指してきて、その先に目指すところもない」と綴っていた。それほどまでにUNISON SQUARE GARDENにとって、この公演は特別な意気込みで臨んだものだった。 序盤のMCで斎藤が「今日は長いよ~!」と宣誓した通り、全26曲というセットリストが組まれており、その中でいくつものハイライトがあった。なかでも序盤で忘れられないシーンは9曲目の「オリオンをなぞる」だった。この曲を初めて聴いた時の感動がそのまま色褪せることなく鮮やかに鳴らされ、今もこの胸をワクワクさせる。日本武道館がまるで大きなプラネタリウムになったような演出も美しく、その光と音と、みんなの歌声と歓声がひとつに合わさって、奇跡みたいな瞬間が生まれていた。 MCではいつになく饒舌な3人が想いを吐露した。斎藤は「我ながら思うんですけど、こんなにもバラバラでバンド結成した瞬間から音楽性の違いを抱え、さらに人間性の違いも抱え(笑)、そんな3人が20年も続くとは思ってもみなかったです」と言い、鈴木は「ドラムを毎日何時間もスタジオで練習しながら『何のためにこれをやっているのかと思う時だってある』」と本音を語りながら「それでも熱を持ってやっているとみんなが喜んでくれて、それが自分の生きる意味になる」「いつかの鈴木少年も成長して『このバンドがカッコいいのは俺のおかげだな』と思えるようになりました」と想いを語った。そして田淵が「天性の声帯に甘んじることなく磨きをかけ、おまけにギターまで弾いて誰にも唄えない歌を唄い続ける斎藤宏介。自分自身を貫く熱と哲学を持って常に自分の限界に挑戦し、40歳近くなってもまだ限界突破できるってことを証明する唯一無二のスーパードラマー、鈴木貴雄」と二人を褒め称えていたのも印象的だった。結成から20年、この3人だからここまでやってこれたと素直に言い合えている。それがUNISON SQUARE GARDENの今だ。 そしてこの20年、彼らにしか生み出せない楽曲がたくさんの人たちに愛されてきたことを証明する一夜でもあった。「Hatch I need」や「世界はファンシー」など、ユニークで発明的でロックバンドの面白さを伝える曲たち。「Dizzy Trickster」や「fake town baby」といった凄まじいドライヴ感やスリリングな演奏で魅了する曲たち。晴れやかな祝祭ムードにぴったりの「kaleido proud fiesta」や「君の瞳に恋してない」、そして「いつかの少年」や「もう君に会えない」などじっくり聴かせるミディアムチューンでは、思春期の小さなつまずきにも大人になってからの痛みにもさりげなく寄り添ってくれたりして。そうした音楽そのもののバリエーションの豊かさ、創造性の高さ、3人それぞれのプレイヤーとしてのモチベーションの高さも、あらためて感じるセットリスト。オーディエンスも凄まじいエネルギーを放出しながら1曲1曲を全力で楽しんでいる。 終盤、田淵がこんなことを語った。「僕たちには、才能があった。けど、才能で、信念で、渾身の1曲で、世界は別に変わらなかった。ロックバンド続けるのってやっぱり大変なのよ。だから時にそれはロックバンドをあきらめてもいい理由になった。時に前を向けなくて、誰にも気づかれないように後ろを向いた。そしたら君がいた。君がずっと後ろから見てくれていることがこんなに嬉しいなんて思ってなかった。君が好きなロックバンドは、君がずっと好きでいてくれたからここまでこれた。ロックバンドを諦めなくて良かった。君のおかげだ、ありがとう」 これまでインタビューでも語られてきたように、時に思うようにいかなくて絶望や孤独を感じたり、迷ったりしながらも、自分たちが思い描くロックバンドとしての理想を諦めずに追い求めてきた。だからこそ今のUNISON SQUARE GARDENがあるし、ファンとの揺るぎない関係性が築けている。最初に武道館に立った時、田淵は「あんまり大きな会場でライヴをするのは好きじゃないんだけど、この東京の、九段下の会場には個人的に並々ならぬ思い入れがありまして。もしこのステージに立てたら、みんなに言おうと思ってたこと、めちゃくちゃカッコ悪いんですけど、5年前から準備してました。でも今日はそれを言うのは止めておこうと思いました。やっぱり10年とか11年で言っていいセリフではなかったので」と言っていたが、その時に話したかったことが、この終盤のMCだったのかなと思った。 24曲目の「春が来てぼくら」が、この素晴らしい節目にふさわしく華やかに鳴り響き、鈴木がドラムスティックを高らかに掲げた。「シャンデリア・ワルツ」では斎藤がステージ後方へと移動してギターを弾き倒し、ラストの「センチメンタルピリオド」では会場全体が明るくなり、楽しさ最高潮の中で田淵がハンドスプリングを決めた。心から幸せそうな3人の姿に、その場にいたみんなも幸せになった夜。会場にいた誰かが叫んだ「おめでとう」や「ありがとう」の声は、きっと彼らにも届いていたはずだ。 〈君が好きなロックバンド〉であるために、ものすごく繊細に注意を払いながら活動を続けてきた3人。それは、各々が好きなバンドに憧れて、このバンドを始めた、あの頃の自分たちの想いを裏切らないということでもあったのだろう。ロックバンドとしての生き様を、夢の描き方を、20年という時間をかけてUNISON SQUARE GARDENは見せてくれたんだなと思えるような、感慨深い節目の一夜だった。そしてこれからもこんな奇跡みたいなライヴを観せてほしいと願わずにはいられない。 【SET LIST】 01 Catch up, latency 02 サンポサキマイライフ 03 Dizzy Trickster 04 fake town baby 05 恋する惑星 06 Hatch I need 07 マーメイドスキャンダラス 08 Invisible Sensation 09 オリオンをなぞる 10 もう君に会えない 11 スカースデイル 12 オトノバ中間試験 13 世界はファンシー 14 フルカラープログラム 15 いつかの少年 16 101回目のプロローグ 17 kaleido proud fiesta 18 スロウカーヴは打てない(that made me crazy) 19 Phantom Joke 20 天国と地獄 21 君の瞳に恋してない 22 カオスが極まる 23 シュガーソングとビターステップ 24 春が来てぼくら 25 シャンデリア・ワルツ 26 センチメンタルピリオド
上野三樹