エビの陸上養殖拡大へ低コスト水槽の特許出願 鋸南の専門企業(千葉県)
農業用ハウスを利用してエビの陸上養殖を手掛ける鋸南町のスタートアップ企業「Seaside Consulting」が、熱工学を応用した低運用コストで水温を管理する魚介類養殖用の水槽を考案し、2日に特許を出願した。平野雄晟代表取締役(54)は「この技術で、千葉県を養殖エビの国内有数の生産地にしたい」と意気込む。 平野さんによると、考案した水槽モデルは、直径5メートルの円筒形で、容量20立方メートル。熱工学の「放射」「伝導」「対流」を駆使し、熱エネルギーを高い効率で運用する仕組み。 平野さんの試算では、この仕組みだと通常の30分の1程度の消費電力で効果を発揮する。陸上養殖用ハウスの設置には間伐材を活用し、太陽光発電の装置を標準的に装備する構想で、環境に優しく、さらに消費電力を減らすことを目指す。 民間基金に助成金を申請することにしており、年内には試作品をつくりたい考えだ。また、日本太陽エネルギー学会などに入会し、学術的な面でも研究を重ねることにしている。 同社は平成29年の設立。平野さんの妻、彩さんと共同で代表取締役を務めている。 中国科学院海洋研究所(青島)との共同研究などを通じ、バナメイエビ養殖のノウハウを積んだ。このノウハウを基に、同町下佐久間の耕作放棄された農地にあった約500平方メートルの農業用の鉄骨ハウス内に、縦32メートル、横5メートルの水槽を設置。タイから20万尾の稚エビを輸入して令和3年8月から、食用のバナメイエビの養殖を始めた。4年度には1トンの生産実績を上げた。販売先には回転ずしチェーンもあり、品質に高い評価を得ているという。 今回、特許を出願した技術は、これまでの養殖のノウハウを基に考案した。 平野さんは、この技術について、「自然環境を壊さず、農家の高齢化により全国で増える耕作放棄地を活用できることから、さまざまな地方の課題解決につながる」と話す。 さらに、太陽光を利用するため、寒い地域でも低コストで暖かい水を好む魚介類を生産できるとし、「大半を輸入に頼るエビをはじめ、水産物の国内自給率を高めることにも貢献できる」と言葉に力を込める。 現在は沖縄県、鹿児島県が生産量の上位を占める養殖クルマエビを、この技術で房総半島沿岸でも生産すれば、近い将来、千葉県も大きな生産地になれると見込む。 すでに実績を挙げているエビの陸上養殖技術については、木更津市に本社を置くホテル運営会社から支援の依頼を受けた。この会社は「持続可能なリゾート」を目指し、平野さんの技術を導入して4月半ばからホテルの周りで本格的にエビの養殖事業を始める。この事業とともに、平野さんの挑戦も動き出す。