『不適切にもほどがある!』でジェネレーションギャップ!?若者と中高年で巻き起こる“昭和論争”激化
昭和の「パワハラオヤジ」が令和の世にタイムスリップし、無数のジェネレーションギャップに直面――このキャッチーなストーリーで話題を呼んでいるドラマが『不適切にもほどがある!』(TBS系)だ。 【う、美しすぎる……】純白の二の腕を見せ、体のラインがわかるタイトな服装に身を包む吹石一恵 いま、当時を知らないZ世代の間で「昭和レトロブーム」が起きている。そんなトレンドにも乗っている本作だが、リアルな昭和世代にとっては、あの時代に懐かしくも複雑な感情があるようだ。 「地獄のオガワ」の二つ名を持つ、阿部サダヲ扮(ふん)する中学教師の小川市郎は、典型的な昭和のオヤジ。所かまわずタバコを吸い、同僚の女性教師に対してはセクハラ言動を平気で行い、野球部の指導にはケツバット。 そんな、令和の現代ではとうに時代遅れになった昭和のマナーを描写するべく「この作品には、不適切なセリフや喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、’86年当時の表現をあえて使用して放送します」とわざわざテロップが表示される。 「ニャンニャン」「チョメチョメ」などの流行語や、女子高生がKKコンビの話題で盛り上がるといった、昭和当時の小ネタをちりばめた展開も好評だ 。そこに加えて、市郎が令和の現在も活躍する小泉今日子のポスターを剥がすと、’86年当時の本人のポスターと繋がっており、過去に戻ってきてしまうというタイムスリップにまつわる仕掛けも面白い。 しかも、令和の時代感覚に染まった社会学者の向坂サカエ(吉田羊)とキヨシ(坂元愛登)親子が、現代から’86年にタイムスリップし、昭和と令和、双方の時代をコミカルに風刺してみせている。 細かな時代描写のズレはあれど(たとえば市郎は娘・純子の子ども時代を撮ったVHSビデオを大切にしているが、’76年発売のVHSを市郎のような一般家庭が、純子がまだ幼い’70年代に持っているのは不自然)、ドラマの中での’86年の流行は現代からみるとレトロでかえって鮮烈に映る。 市郎の一人娘の純子を演じる河合優実は’80年代風ヘアスタイルでそれまでとイメージを一新してキュートな高校生に。スケバン風のスカート丈の長いセーラー服も似合っていて、令和からやって来たキヨシが惚れてしまうのも無理はない。 ’80年代のカルチャーは、40年を経て令和の世でレトロ趣味として脚光を浴びている。まずはカメラ。’86年の小川家に登場する「写ルンです」、いわゆる使い捨てカメラは、手軽さとスマホでは撮れない独特の画質で撮れるために、普段使いとは違う若者の趣味アイテムとして使われている。フィルムカメラも同様で、いかにもレトロなカメラのデザインや、撮り直しがきかないアナログさがかえって若者にも受け入れられている。愛用している若いアイドルやタレントも増え、「映え」を追求するイマドキの感覚にもマッチするようだ。 そして、音楽界では’80年代のシティポップブームである。竹内まりや『プラスティック・ラブ』、松原みき『真夜中のドア~stay with me』、泰葉『フライディ・チャイナタウン』など、当時の楽曲が海外でカバーされ、動画サイトを通じて日本でもブームが再来。ここ数年の音楽シーンの一ジャンルとして定着している。同ドラマは、こういった’80年代カルチャー再評価の風潮を的確につかみ、トレンドに乗った良作になりそうだ。 ◆昭和を美化するな? Z世代インフルエンサーの投稿が賛否 とはいえ、ドラマゆえにマイルドかつコミカルに描かれてはいるが、リアルな’80年代は、現代では考えられない価値観がまかり通っていたのも事実だ。 教師の体罰は当たり前で、生徒による校内暴力で荒れていた時代。男女雇用機会均等法は’86年に施行されたばかりで、その後’89年に流行語になった「セクシュアル・ハラスメント」の概念が定着するのは平成初期になってからのこと。当時は過労死やパワハラの概念すらなかった。 市郎の言動もドラマだから許せるが、こんな中年男性が現代に実在したら炎上間違いなしだろう(ドラマ内でもバスに乗って喫煙する市郎の様子がSNSにさらされて、炎上を招いた)。 さらには、’86年の2月には東京・中野富士見中学でのいじめ自殺事件が社会問題化。昭和の学校も、ドラマの中でキヨシが憧れるような青春真っ盛りの日々ばかりではなかった。 それゆえに当時を知る中高年世代と、まだ生まれる前の若者との間ではジェネレーションギャップも生まれているようだ。昨今はSNSを中心に昭和のカルチャーを愛好する若いインフルエンサーが活動しているが、その中のとある投稿が、このギャップを映し出した。 ’00年生まれのあるインフルエンサーが《~略~ 昭和を生きた事がありません。でも細胞レベルで当時の全てが好きです。鳥肌が立つんです。愛しているんです》と、Xで投稿。何気ないはずのこのポストに、 《令和のいい時代に生まれた人が昭和を美化して「いいよね」って言うのは誉めているようで、実は上から目線》 《当時は大気汚染や男尊女卑もひどかった。『全て』と書くならそれらも許容する事になる。気安く全てと言うな》 《好きなのはボンヤリした「昭和の雰囲気」でリアルな昭和ではないんやろうなと思ってる》 といった反発めいた反応が寄せられた。 もちろん《そういう態度こそが老害しぐさ》など、擁護するポストも多く投稿されたが、《本当の昭和はそんなキレイなものじゃない》と若者に忠告したくなる中高年もいる様子である。 とはいえ、時計の針を戻すことはできない。たとえ表層的であっても「古き良き昭和」を老いも若きも仲たがいせずに懐古したいものだ。 文:桂 アンリ
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