航空燃料用の木質由来エタノール生産(鳥取県西部)
石油由来の航空燃料から循環型の原料で作られた航空燃料への転換が進む中、 王子製紙米子工場では国内で初めてとなる 木材パルプ由来のエタノールを生産するための設備を導入します。 その背景と狙いを取材しました。 去年12月、王子ホールディングス社長の磯野裕之さんと鳥取県知事 それに米子市長と日吉津村長が調印式に出席しました。 調印式では4人が王子製紙米子工場に新たな設備を導入することに関して 協定書に署名しました。 王子製紙米子工場に導入されるのは次世代の航空燃料として期待される SAFの原料となるエタノールをつくる設備です。 航空機は二酸化炭素の排出量が多いことから、 ヨーロッパを中心に航空機に乗ることは恥ずかしいという意味の 「飛び恥」という言葉まで生まれています。 「SAF」は石油由来の航空燃料を使わず 植物や廃油などからつくるバイオ燃料です。 石油由来の航空燃料と比べて二酸化炭素の排出量を およそ6割から8割減らせるとされています。 しかし、生産量はわずかで、経済産業省によりますと、 2022年時点の世界のSAF供給量は 世界の航空燃料供給量の0.1%程度にとどまっています。 王子ホールディングスはSAFの原料となるエタノールを 木材パルプから生産する設備を米子工場に今年度、導入します。 SAFの原料となるエタノールは 主にサトウキビやトウモロコシなどから作られています。 木材パルプ由来のエタノールは国内で初めて米子工場で製造されます。 王子ホールディングスは、従来の紙づくりにとどまらず 会社が保有する森林から木材チップを安定して調達できる利点をいかして 環境に配慮したものづくりをしようと、エタノールの製造を決めました。 エタノールの製造は、工場内にあるパルプ製造ラインを活用して 紙を生産するときと同じ工程で木材チップをパルプに加工。 新たに導入する設備でパルプを酵素によって分解して糖液にし、 その糖液を発酵、蒸留させてエタノールを生産します。 米子工場では、紙づくりに使うパルプのほかにレーヨンなどの原料になる溶解パルプを 年間およそ12万t製造しています。 多様なパルプを使ってエタノールを製造できることから 米子工場で製造することになりました。 エタノールの製造に伴い人員はおよそ10人増やす見込みです。 王子ホールディングスはおよそ43億円かけて設備投資する計画です。 米子工場に導入する設備に対し鳥取県は補助金およそ9億円 米子市は人材確保を支援、 日吉津村は固定資産税を一定期間免除することなどで支援するとしています。 国は、2030年までに国内のジェット燃料の10%を SAFに置き換える目標を掲げています。 こちらは、SAFの需要の見通しを示したグラフです。 国内のSAF需要は2025年から増えはじめ、 2030年には172万キロリットルと全体の10%に置き換わる見通しを立てています。 SAFの開発、製造を推進することは世界情勢の流れとなっています。 ANAグループ、JALグループともに 使用する燃料の10%以上をSAFに置換えることを共通目標に掲げています。 世界的に注目されるSAFの原料となる木材パルプ由来のエタノールが 鳥取県西部で製造されます。 王子製紙米子工場では、年間1,000kLのエタノールの生産を見込んでいます。 これはボーイング787型機で地球1.5周分に相当します。 将来的には10万kLに増産する計画を立てています。 王子ホールディングスは来年3月に試運転を開始する予定です。