JN.1株出現から見えてきた、大流行する変異株の共通点は?【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■2022年末:オミクロンXBB.1.5株の出現 次に、2022年末。流行拡大したXBB.1.5株の前に理解しておくべきは、その親株にあたるXBB株。こちらについては過去のコラムで詳しく解説しているので、そちらを参照いただきたい(第3話)。 まず重要なのは、親株たるXBB株が最初に見つかったのは、2022年の夏の終わり頃だった、ということ。そして当時は、まったく別系統の変異株である「BQ系統」と勢力争いをしていて、どちらが優勢になるかはまだ読めない状況にあった。ただし、われわれG2P-Japanなどの研究によって、親株であるXBB株の時点で、その「免疫逃避力」はほぼ最強レベル(当時)にあることはわかっていた。 その状況が一変したのが、12月のアメリカでの、XBB.1.5株の出現である。2022年の末に突如出現したXBB.1.5株は、アメリカで感染を急拡大させた。 親株たるXBB株に比べて、XBB.1.5株は、スパイクタンパク質にたったひとつの変異をプラスしている。「F486P」という変異だ。2023年始めのG2P-Japanスクランブルプロジェクトによって、このF486Pという変異が、ウイルスの「感染力」を上昇させるものであることが明らかになっている。 つまり、XBB株のほぼ最強レベル(当時)の「免疫逃避力」をベースにした、「F486P変異の獲得による『感染力』の向上」が、XBB.1.5株の流行拡大のキーだった、と考えられる。
■2023年末:オミクロンJN.1株の出現 そして、2023年末。その主役たるJN.1株の親株は、2023年の8月の終わりに突然見つかった、BA.2.86株。ちなみに「JN.1」とは、「BA.2.86.1.1」が改名されたものであり、れっきとしたBA.2.86株の子孫株である(なお、変異株のネーミングルールについては、第3話を参照)。 JN.1株やBA.2.86株は、それまでの流行の主流だったXBB系統とはまったく異なる、BA.2株直系の子孫株。その親株に相当するBA.2株に比べて、スパイクタンパク質に30以上もの変異を一気に獲得していることから、「これはもう『オミクロン』じゃなくない?」などとSNSで騒がれたりもした(第4話)。 余談だが、2023年8月当時、BA.2.86株の出現については、世界各国でそれを報じていた。しかし、感染症法5類に移行した後だったこともあるのか、日本では、「新型コロナについてのニュースを報じることが禁じられているんじゃないか」というくらい、大手既成メディアからの報道がなかった。 私の理解では、BA.2.86株について本邦で初めて報じたのは、私が取材対応した『週刊プレイボーイ』の記事である。世間の潜在的な注目度が高かったのであろう、敏腕ライターのK氏によって書かれたこの記事(「オミクロン株出現以来の大進化! コロナの新しい変異株「BA.2.86」はマジでヤバい!?」)は、かなり広く読まれたようである。 閑話休題。BA.2.86株は、実は出現当初に懸念されていたほどハデに流行拡大することはなかった。しかしそれが、やはり年の瀬にさしかかり、スパイクタンパク質に「L455S」というひとつの変異をプラスする。これによってJN.1株へと改名・進化すると、爆発的に流行拡大を始める。2023年11月から年末にかけて、フランスで流行が急拡大し、一気に主流の株へと躍り出た。 われわれの最新の研究結果によると、前年のXBB.1.5株のF486P変異とは違い、JN.1株のL455S変異は、ウイルスの「感染力」には大きな影響は与えないようだ。一方、この変異によって、「免疫逃避力」がかなり向上している。つまり、「L455S変異の獲得による『免疫逃避力』の向上」が、JN.1株の流行拡大へのキーのようである。