もはや70代で働くことは当たり前に…時にブラック、時にやりがい「ニッポンの老働」事情
「78歳、今日も夜勤で、施設見回り」
国の側でも、「生涯現役社会」という言葉を掲げ、高齢者にはできる限り働き続けてほしいと思うようになっている今。生活するに足る年金を支給することはできないし、若者は減って人材不足が叫ばれる中、高齢者にも仕事を担ってもらわないと、国が成り立たなくなっている。 そんな時代の“老働者”の気持ちにぴったりフィットしたのが、三五館シンシャの、日記シリーズである。このシリーズの一作目は、2019年(令和元)に刊行された柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』。カバーには、年老いた警備員のイラストと共に、 「当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます」 と記される。 著者が勤務する会社では、警備員の八割が七十歳以上の高齢者である。月収は平均で18万円ほどで、暑さ寒さに日焼けといった苦労も尽きない裏事情が記されている。この本を読むと、街で出会う交通誘導員に親しみが湧いてくるのだが、 「土壇場に追いつめられた人にとって交通誘導員の仕事は社会との最後の“蜘蛛の糸”」 「警備業は忍耐業」 「最底辺の仕事」 といったシビアな言葉の数々を読めば、しんみりした気持ちにもなってくる。 この本は、2019年に金融庁が「老後の資金は夫婦で2千万円必要」と発表した、いわゆる老後2千万円問題の頃に刊行されたこともあり、大きな話題となった。その後も、『マンション管理員オロオロ日記 当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承ります』(2020年)『障害者支援員もやもや日記 当年78歳、今日も夜勤で、施設見回ります』(2023年)等、高齢になっても働かざるを得ない老働者達の、ブラックがかった職場事情を書いた日記シリーズが、次々と刊行されている。 * 酒井順子『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書)は、「老後資金」「定年クライシス」「人生百年」「一人暮らし」「移住」などさまざまな角度から、老後の不安や欲望を詰め込んだ「老い本」を鮮やかに読み解いていきます。 先人・達人は老境をいかに乗り切ったか?
酒井 順子