Number_iという「大規模な実験」。サマソニ、新曲「INZM」で彼らが見せた進化とは
先日、国内最大級の都市型音楽イベント「サマーソニック」に出演し注目を集めたNumber_i。アイドルを出自とする彼らがヒップホップのアーティストとして進化を遂げていく様を追ってきた批評家の伏見瞬さんは、17日に千葉で開催されたサマーソニックでのパフォーマンスを目の当たりにして、「今の彼らにしか生み出せない文化が、確実にある」と感じたという。 【写真】Number_iのサマーソニックでの熱いパフォーマンス 『スピッツ論―「分裂」するポップ・ミュージック』の著者で、国内外の幅広い音楽の動向をわかりやすく伝えるYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」の「しゅん」としても活動する伏見瞬さんに、当日のステージの様子とともに、“Number_iにしか生み出せないもの”について綴ってもらった。
最大限の力が発揮された、全9曲
8月17日11時。QVC千葉マリンスタジアムは、摂氏30度台後半に届いた気温の中、直射日光を受けてたたずんでいた。体力と水分を消耗する過酷な環境の中、サマーソニック・マリンステージに初めて立つNumber_iの姿を目撃しようと、多くの人が集まった。 MC、サッシャのアナウンスに続いて現れた3人は、多くの期待と好奇の視線をすべて納得させるかのように、気合と気概に溢れたパフォーマンスを披露した。結論として、彼らは最大限の力を発揮したといえる。その様子と熱量を伝えるには、披露した9曲すべてについて、ひとつひとつ語らなくてはいけないだろう。 冒頭、デビュー曲「GOAT」の前へ前へと迫りくるかのごときビート感覚に合わせて、彼らのダンスの熱気も観客の方へグイグイ迫ってくる。急に休符が入る変則的なパートにおいて展開される、体がぐにゃっとなるような動きとサウンドの絡み合いは、体感すればするほどクセになる。 2曲目は、日本のヒップホップの世界で実績と信頼を勝ち得てきたMC兼プロデューサー、PUNPEEが楽曲提供した「SQUARE ONE」。太いビートに乗せた3MCの声は、いつも以上に力がこもっている。 特筆すべきは平野紫耀で、彼の持ち味である低音のフロウが、よりドスの利いた声で展開される。重心の低い身体の運用と共に、重たい存在感を発揮する。今の自分は「ラッパー」なんだと、体全体を使って主張しているかのようだ。 続いての岸優太プロデュース曲「No-Yes」は、The Weeknd(ザ・ウイークエンド)による世界的大ヒット曲「Blinding Lights」が導入して広まった80年代風(というかa-ha「Take On Me」風)のドラムとシンセのサウンドに乗せて、さわやかで切ない夏の風の気配を運んでくる。 「君」への信頼と共に、過去の失敗や後悔についても綴るリリックを持ったこの曲。3人は笑顔で、観客に向かって手を振る。ステージを動き回って、オーディエンスとの接近を楽しむ。岸優太の、けわしい目つきからクシャっとした笑顔への変化が特に筆者の印象に残っている。 MCでは、神宮寺勇太の言葉が記憶に鮮やかだ。千葉県出身の神宮寺は、幼少期から何度もマリンスタジアムに通っていたと語る。「海浜幕張駅を降りた瞬間から伝わる潮の匂い」について語る彼の言葉には、今立っている場所への親しみと、地元だからこそライヴを成功に導きたいという願いが、同時に込められていたように思う。