フリーアナウンサー・神田愛花『変わってしまっていた、1mの長さ。』
今年も「そろそろ温泉に行こう!」
ようやく秋らしい気温になり、虫が大人しくなってきた。こうなるとすぐにでも、グランピングや山方面の温泉に行きたくなる。虫嫌いの私にとって、今から春先までの半年間が山と共存できる貴重な期間だ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~67回)はこちら 毎年この思いに付き合ってくれるのが、この連載に度々登場する中学高校時代の仲良し女子3人。例年通り今年も「そろそろ温泉に行こう!」と、1泊2日で露天風呂付き客室に泊まる計画を立てた。 いつも宿を探す役割は私が買って出る。旅行が好きなので、どんな宿があるのかを知ること自体が楽しいし、自分自身が「泊まってみたい!」と思う宿を候補に挙げられるからだ。 リクエストを聞くと、「露天風呂からの眺めがいいところ」「落ち着いて美味しいお料理が食べたい」と返信がきた。そこそこいいお値段の宿であれば、食事は大抵美味しいし、食事処の半個室のような静かな空間で提供してくれる。だから後者のリクエストには、これまでの私たちの宿選びより、少し背伸びをした価格の宿を選ぶことで応えることにした。 問題は前者のリクエスト、″眺めのいい露天風呂″を探す過程で起きた。 全国の宿をザッと見たところ、北海道の宿の眺めがひときわ雄大だった。(よーし、北海道だ!)と、ニセコや阿寒湖付近の宿をグループLINEに送った。 (みんなどれがいいって言うかなぁ!?)とワクワクしていると、早速「ピ~ユ♪」と、返信がきた。そこには、「調べてくれてありがとう!」に続いて、「ゆるめの温泉がありがたい!」と書いてあった。 長い付き合いから解読するに、″ゆるめの温泉″とは、気軽に行ける温泉のこと。要はもっと近場の温泉に行きたいという意味だ。前日まで仕事が忙しく、当日はヘトヘトだからだそうだ。 (北海道は近いのに?)と不思議に思っていたら、続けて「湯河原はどう?」と返信がきた。「湯河原!? それはさすがに近過ぎ!」。思わず声が出た。それなりに移動しないと旅をした気分になれない。だから「湯河原だと数駅行くのと変わらない感じだから勘弁!」と返信した。 するとグループLINEがピタリと止まったのだ。既読にはなったが、誰からも返信がこない。恐らく私が送ったメッセージが原因だ。一体何をしてしまったのだろう。数少ない大切な友達だ。(ちゃんと自分の間違いを認識して、直さなきゃダメだ!)と、必死に理由を考えた。 一つ思い当たる節があった。私はこの5ヵ月の間に、金曜日の『ぽかぽか』生放送後から日曜夜までの2泊3日で、台湾に3回、香港に2回、ロケに行っていた。プライベートでもその週末を使い、一度ハワイに行っている。私にとっては苦ではなく、むしろ有り難いスケジュールだ。ただ、それによって自分の中での″距離感″に変化が起きていた。 ◆失態からの自戒 ニューヨークやパリは以前「遠い」と思っていたが、今は「そこそこ遠い」に。ハワイは「そこそこ遠い」と思っていたけれど、今は「近い」と感じるようになっていた。となると、国内でしかも近場は……ほぼ自宅の近所、というわけだ。 人それぞれ身を置いている環境によって、物事に対する感じ方には違いが出てくる。それは当然だし仕方のないことだ。だが自分のその変化を友人にも当てはめ、強要するのは大間違い。私はその間違いを犯してしまったのであった。 この現実を把握した途端、「ゴォォーッ!」と音を立てるように後悔と焦りが襲ってきた。そして急いで関東近郊の宿を探し、候補を送った。 それからはトントン拍子に話が進んだ。みんなの反応も元に戻り、電車で片道約1時間半の湯河原の宿に決まった。 中学生の時から25年以上も共に過ごしてきた私たち。それぞれ良いトコロも悪いトコロも熟知し、受け入れ合っている。だからこそ、芸能界で働くようになったり、出産をしたり、離婚をしたり、アイドルに夢中になったりと、年齢を重ねる過程でそれぞれに変化があっても、関係ない。お互い中身さえ変わらないでいてくれれば、それでよかったのだ。だが今回の私はこのかけがえのない大事なルールを失念し、壊そうとしてしまった。1mは1m、それ以上でもそれ以下でもない。大切な友達を失わないために、改めて自分に言い聞かせたのであった。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年11月15日号より イラスト・文:神田愛花
FRIDAYデジタル