「官民共創」が拓く地域創生の未来:「NoMaps2024」トークセッションレポート
2024年9月、札幌市において「No Maps 2024 地域が目指す官民共創のまちづくり」と題したトークセッションが開催された。登壇者は札幌市の秋元克広市長、北海道を代表するドラッグストアチェーン「サツドラホールディングス」代表取締役CEOの富山浩樹氏、福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長の石丸修平氏、そしてForbes JAPAN編集長・藤吉雅春の4名で、官民一体となっての地域活性化のあり方について、活発な議論が繰り広げられた。 今年6月、北海道・札幌市は、国内外からの投資を呼び込み、GXなどの成長分野へ十分な資金が供給される環境の実現を目指した「金融・資産運用特区」の対象地域となり、あわせて北海道全域が「国家戦略特区」に指定された。その札幌市の秋元市長が議論の口火を切った。 「札幌市のみならず全国的に少子高齢化や人手不足が問題となっているなかで、これを行政だけで解決するのは難しい。やはり民間企業の技術やノウハウを活用した『官民共創』が不可欠だと思います」 ただ従来は「民間から提案があってもそれを役所のどの部署に持ち込めばいいかわからない」という声が多かったという。そこで札幌市では『官民共創』を推し進めるための具体策として、今年7月、民間企業からの事業提案を一元的に受け付ける窓口「サッポロ・コ・クリエーションゲート」を設置。官民の連携を加速させていく枠組みをつくった。 一方で道内大手のドラッグストアチェーン「サツドラホールディングス」CEOの富山浩樹氏は、地域振興という観点からサツドラが推進する「EZOCA」(提携店で利用できる北海道民御用達の共通ポイントカード)による地域振興の取り組みを紹介。富山氏によると道南の江差町では「EZOCA」の発行枚数が、町民人口(約8000人)の実に108%に達しているという。 「今は他の地域に住んでいる“元江差町民”が所有されている分、人口より多くなっているんです。マイナンバーよりみんなもっています」という富山氏だが、その背景には衰退する地域に住む住民の「強い危機感」があるという。経験上、人口1万人以下の小規模自治体の方が危機感を共有しやすく官民連携が円滑に進み、1万人以上の自治体では危機感が薄いところも少なくないという。そのうえでこう指摘した。 「(札幌市の)『コ・クリエーションゲート』もそうですが、(官民一体で物事を進める)枠組みはできてきた。今後の課題は、その枠組みのなかで実態として動いているプロジェクトをどう見せていくか、だと思います」 枠組みのなかで実態のあるプロジェクトをどう動かしていくのか。“官民共創”の先駆的な自治体として知られる福岡で福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長を務める石丸修平氏は、自身の経験を踏まえて次のように語った。 「例えば、福岡でも中州の屋台に至るまで街中でキャッシュレスを普及させようとか、国際会議やイベントを誘致しようとか、プロジェクトはいろいろありますが、それを進めるためには官民が一堂に会してリソースを出し合う枠組みが不可欠です。そのうえで大事なのは、今後どういう街を目指すのか、大きな方向性と戦略を示すことだと思います。我々もFDCとして福岡市にとどまらず周辺の自治体を巻き込んだ“福岡都市圏”という単位で主体的に戦略をつくって、そのなかで都心をどうしていくかという発想でやっています」 官と民の間を繋ぐFDCだからこそ、大きな方向性と戦略を示す役割を担える。方向性が決まって初めて、個々のプロジェクトのタイムスケジュールが動いていくという。 ■地域活性化がうまくいく自治体の「共通点」 福岡市のように「官民共創」や地域の活性化が上手くいく自治体に共通点はあるのだろうか。これまで、さまざまな地域再生のかたちを取材してきた藤吉雅春Forbes JAPAN編集長は、成功する自治体には2つの共通点があると指摘した。それは「おかしな人」と「ネーミング」だという。 「官民共創が上手くいっている自治体には、熱い行政マンがいます。また積極的に民間から中途採用している自治体もある。異常な情熱をもってあちこち企業を歩き回っている『おかしな人』が必ずいるんです(笑)。こういう人が停滞した町の空気をかきまわすことで、その熱が伝播して物事が動き出すことが多い。それから『ネーミング』ですね。 例えば福岡市が掲げた『スタートアップ都市宣言』とか、『世界一チャレンジしやすい町』(宮崎県新富町)とかが象徴的ですけど、何だかわからないけど面白そうなプロジェクトだな、とみんなに思わせることが大事な気がします」 ■規制緩和と既得権 「国家戦略特区」の狙いは、さまざまな規制緩和によってビジネスをしやすい環境をつくり上げることにあるが、実は先行する自治体でも規制緩和の進み具合はさまざまだ。 秋元市長は「国から“規制緩和のアイデアがあれば、もってきてくれ”と言われて、実際に何かもって行くと『うーん、これはなぁ』となることが多い」と苦笑するが、富山氏は「福岡とか他の先行する国家戦略特区が既に先行してやっている規制緩和を北海道に合う形にしてもって来る手はありますよね」と後発組のメリットを指摘した。 石丸氏は、規制緩和を進めるには、必ず業界の既得権との調整が必要になる、と言う。 「例えばこの間、クリーニング業法の規制緩和をやりました。要は専用のロッカーなどを介して無人で洗濯物をやりとりできるようにしてほしい、というリクエストだったんですが、従来のクリーニング業法では、これはできなかったんです。というのも客と業者は必ず対面で洗濯物をやりとりしなければならないという規制があったから」 法律ができた当初は伝染病などのまん延を防ぐために洗濯物を丁寧に扱うという意図があったが、今の時代にはそぐわない規制ではある。 「それでもここを変えるとなると、(業界との折衝が)なかなか大変で(苦笑)。けれどそういう規制を突破できれば、そこにビジネスのチャンスが広がっていくのも事実です」 ■北海道の「ポテンシャル」 藤吉は「『規制緩和』というと既得権をぶっ壊すようなイメージが強いが、あえて(既得権に絡むような)伝統的企業と初めから一緒に組んでやる方法もあると思います。そのとき共通のベースになるのは、郷土愛じゃないですかね。地域活性化に必要な要素として“シビックプライド”と言われています。福岡もそうですが僕が札幌という街が面白いと思うのは、住んでいる人がみんな札幌大好きというデータがあるんですよね(笑)」と述べ、地域活性化がうまくいく地域は、例外なく郷土愛が強い傾向があると指摘した。 広大な土地、日本屈指のレベルで盛んな農業や漁業、再生可能エネルギーへの積極的な取組み、そして郷土愛……課題も多いが北海道のポテンシャルは高い。 最後に秋元市長が札幌市が窓口となって北海道の各地方と連携し、「官民共創」によって北海道全体を盛り上げていくために「我々も覚悟を持って取り組みます」と決意表明の言葉を述べた。 参加者が「あっという間だった」と口を揃えた50分は“地図なき領域を開拓する”という「NoMaps」の理念を体現するような熱いセッションとなった。
Forbes JAPAN 編集部