センバツ2019 初回から全開、強豪撃破 歓喜、青が揺れるアルプス /福井
<第91回選抜高校野球> 創部から7年目、啓新のチームカラーである青がアルプススタンドで躍動した。第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第5日の27日、初出場の啓新は1回戦で桐蔭学園(神奈川)と対戦し5-3で競り勝った。初回に穴水芳喜主将(3年)の適時打などで先制した啓新は、持ち前の粘りで相手の反撃を振り切った。昨秋の関東大会を制した強豪を退けて甲子園に一陣の風を巻き起こした選手たちを、大応援団は「歴史的な勝利だ」とたたえた。【塚本恒、矢倉健次、隈元悠太】 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 啓新 210001001=5 020000100=3 桐蔭学園 甲子園初出場の感慨に浸る間もなく、真っ青の「啓新カラー」に染まった一塁側アルプスは初回から揺れた。一回表1死二塁、穴水主将が放った一打は右翼手の頭を越えて三塁打に。「先に流れをつかんだ方が勝つ」。そう話していた穴水主将が自身のバットで先制点を生んだ。父芳浩さん(54)は「1打席目から集中して打席に入ってくれた」とわが子の成長に目を細めた。 一時は3点差をつけたものの、試合は互いに点を取り合う緊迫した展開に。創部当初から練習試合の審判を手伝うなどチームを支えてきた坂井市丸岡町舛田の大嶋誠さん(71)は「北信越大会でも接戦が続いたが、粘り強く戦ってきたチーム。ハラハラするけど選手たちを信じてるよ」と明るい表情を見せた。 再びチームに勢いをもたらしたのは古川剛選手(3年)だ。六回表1死二塁の好機で打席に立つと、鋭く振り抜いた打球が左中間を破る適時二塁打となった。「甲子園の雰囲気で緊張したが打てて良かった」。スタンドで見守った母和代さん(59)は「みんなと一緒に冬場の練習を乗り越えてきた成果が出たね。チームが一つになっていると思う」と拍手を送った。 だが、豪打で鳴らす相手も食い下がる。点差は開かないまま終盤へ。八回裏、安積航大投手(3年)に代わって浦松巧投手(同)がマウンドに立つと、アルプスからは「落ち着いていけば大丈夫だ」とエールが飛んだ。 九回裏2死。浦松投手が最後の打者から三振を奪うと、応援団は総立ちになって大歓声を上げた。その輪の中にいた荻原昭人校長(52)は「福井の人たちに元気を届ける試合をしてくれた。歴史をつくってくれた」と何度もうなずきながら喜んでいた。 啓新の次戦は大会第8日第3試合(30日午後2時開始予定)の2回戦で、熊本西(熊本)と智弁和歌山(和歌山)の勝者と対戦する。 ◇40人が友情演奏 ○…啓新の一塁側アルプススタンドには力強い味方が。明浄学院高(大阪市阿倍野区)と系列校の吹奏楽部員ら約40人で、勇ましいリズムを送ってチームを鼓舞し続けた。啓新は吹奏楽部がなく、バレーボール部を通じて交流のあった明浄学院に演奏を依頼した。父親が高校球児だったという明浄学院の松原藍さん(3年)は「少しでも啓新の勝利に貢献できたら」。サックスの調べに乗せた思いが届いたのか、啓新は甲子園初勝利を飾った。 ……………………………………………………………………………………………………… ◇好救援2回ピシャリ、祖父の夢かなえる 浦松巧投手(3年) 先発の安積航大投手(3年)からマウンドを引き継いだ八回裏、リードはわずかに1点だった。「絶対に抑える」。右横手から繰り出す浮き上がるような直球がさえ、2回を投げて打者6人に1安打も許さなかった。 野球を始めたのは、自身が小学生だったとき61歳で死去した祖父吉田澄夫さんの影響が大きい。吉田さんは1967年、プロ野球の阪神でも活躍した川藤幸三さん(69)とともに若狭の選手として春夏連続で甲子園に出場した。勝利を飾ることはできなかったが、両親からは「おじいちゃんはすごい選手だったんだから」と言い聞かされて育ったという。 そんな幼少期を送っても、野球は「最初は嫌々やっていた」という。だが、活躍を重ねるうち野球は楽しみに変わり、祖父がプレーした甲子園は目標となった。祖父が亡くなった後、家族からは甲子園の土に入った小瓶を渡された。小瓶を眺めるたび、夢舞台への思いを強くしてきた。 祖父の果たせなかった甲子園での勝利を自らの手で引き寄せた。「(墓前に)良い報告ができる。次も絶対に勝ちます」。勝利を重ねることで、天国の祖父も喜ぶと思っている。【塚本恒】